翌朝、梨胡の膝は幾分か回復したらしく、壇や遠山と一緒にマネ業をこなしていた。歩き方もしっかりしてきて、然程支障は無いように思われる。木手永四郎はそんな彼女を一瞥して平古場に目を向けた。
「…何を考えているんですか、平古場クン」
 昨日はものすごく落ち込んだかと思えば、夜は考え込むようにボーッとして今は決意したような顔つきだ。一体どうしたのか気になって彼の恋を積極的に応援している甲斐に訊いたが思い至る節は無いと言われた。だが自分たちの知らないところで何かがあったことは明白だった。
「…え?」
「先程からの君、気持ち悪いんですけど」
「やー、取り敢えずわんのこと気持ち悪いって言っとけば良いって思ってない?」
 呆れたような口調も、昨日の彼では考えられない。馬鹿みたいに浮かれて馬鹿みたいに沈んでいたのだ。その余裕は一体どこから来ているのか。
「………まあ、あれさー」
「はい?」
「モタモタしてる余裕ねーかなって」
「…?その割には昨日よりも余裕があるように見えますが」
「わん、決めたんさ!」
 そう言って立ち上がる平古場。
「はじかさすん(恥ずかしがる)ぬ、なー(もう)やめる!」
 ずり、眼鏡がずれた。くい、と眼鏡のブリッジを押して掛け直してから「…いきなりですね」とやっとの思いで答えた。そのくらい、本当にいきなりだったのだ。
「ちぬー(昨日)手塚とあびて(話して)たら自信ついた!」
「手塚クンと…?」
 何を話していたのか気になったが、平古場がその心意気のまま梨胡の元へ行ってしまったため訊けなかった。
「まあ、別に良いですか」
 元気なのは良いことだ。それに今日は合宿の折り返し地点だ。もう本腰を入れなければ梨胡は落ちないだろう。梨胡がそんじょそこらの女子とは違うことを木手は理解していた。
 やれやれ、と木手は肩を竦める。少し助けてやろうかと柄にもなく考えた。
焦れったい第三者


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