「あんな戦い方は勿体ない」

 彼女はあくる日、ある人物にそんなことを言った。
 その人物は特に親しいわけでもなく、ましてやその日が初対面だった。しかし彼女は彼にそう言わずにはいられなかったのである。彼の戦い方は己の実力をあまりにも殺していたから。だから、勿体ないと忠告した。
「君は実力がちゃんとあるんだから、あんな卑怯な手を使わなくたって良い勝負ができる筈」
 そんなことを言われたことが無かったのか、彼は間の抜けた顔でじっとこちらを見ていた。
「それから」
 彼女はポーチの中から絆創膏を取り出して彼に渡した。要らないと断られるかと思ったが彼は案外素直に受け取った。
「指、少し切れてる」
「! あ…」
「選手なんだから手のケアはしっかりしないと」
 言いたいことを言い終えた彼女は踵を返す。だがもう一つ、言い忘れたことがあったのでその足を止めた。
「次は、最初から真っ向勝負が見られることを楽しみにしてる」
 ―――この一言が決定的となり、彼をオとすことになるなど、この時の彼女は思いもしなかったのである。
ラストイベント


|
/top