「足元、気をつけてくださいね」
「うん」
 懐中電灯の光だけでは若干心許ない中、彼女の足元を照らしながら木手は梨胡よりも少し前を歩いていた。鬱蒼と茂る黒い森を眺めながら、木手は先程の平古場の瞳を思い出した。ああは言っていたものの、木手たちが一緒に森の中へ入っていく際はやはり嫉妬の情が見え隠れしていた。やれやれこれは良い情報を絶対手に入れなければと思いながら、木手はこっそり息を吐いた。
「ところで梨胡クン」
「ん?」
「最近平古場クンと仲良くしてもらっているようですね。ありがとうございます。何か困ったことなどありませんか?」
 そう訊ねると梨胡は薄く笑った。
「別に困ったことなんて無いよ。仕事とか手伝ってもらってるし、むしろこっちのほうが“仲良くしてもらってる”って感じ」
 その瞬間、少し笑みが深まったような気がした。ほう、と木手はわざとらしく声をあげる。
「なら良いのですか…青学の皆さんは俺たち比嘉中をあまり良い様に見ていないでしょう?他の方から何か言われたりしてないんですか?」
「木手ってそういうの気にするんだ?」
 梨胡は目を細めて笑う。弟と似ていた。やはり姉弟なんだと思いながら、木手は負けじと笑ってみせた。
「ええ。平古場クンはお調子者ですしね。君のような可愛らしい女性と話していて“勘違い”でもしたらあとが面倒ですので」
「それはありがとう、でも大丈夫。“何も心配する必要は無い”よ」
 予想通り中々強かな女子だな、と木手は内心苦笑する。そこで木手は話題を変えることにした。「そうだ、“偶然”聞いてしまったんですが…」それを皮切りに話す。
「梨胡クンは中学一年の時に付き合っていた男子がいたそうですね」
 その一言に梨胡はぴくりと反応した。
「…へえ、“偶然”聞いたんだ」
「ええ“偶然”です」
「それで?」
「今は付き合っていないようですが、どうして別れたんですか?」
 梨胡は少し迷った素振りを見せてから、その薄桃色の唇を小さく開けた。
「…木手って誰かと付き合ったことある?」
「いえ、ありませんね。俺はまだ恋愛に興味を持てていないんで」
「そう。……付き合ってみたら分かるよ。“子供の女の子”って、恋してる自分が一番可愛いと感じる。かつ、相手も自分も“盲目”だからそれに気づかないの」
 そのせりふを、木手は理解することができなかった。不可解そうに眉を寄せると、梨胡は勝ち誇ったような笑みを見せた。それは今までで一番挑戦的なものだった。なんだかかっこよささえ感じられ、同じクラスメイトの女子と同学年とは思えなかった。
「君は中々食えない人ですね」
「それはお互い様」
「……、ふ」
「ふふ」
 なんだかおかしくて、二人で少し笑い合った。
「…おや、この辺りは足場が不安定ですね」
「え?」
 気がつけば緩やかな道は無くなり、でこぼこと岩が突出している。
「君が怪我をしては悲しむ人がいますのでね……どうぞ、手を」
 そう言って左手を差し出すと梨胡は面食らった顔をした。それは先程のかっこよさとは違いひどく女の子らしい驚き方だった。だが立ち直ると彼女は僅かにはにかんで、木手の手に自分のそれを乗せた。それはとても柔らかくて小さかった。
 (………成程)木手は平古場が彼女に惚れた理由が分かった気がした。
焦れったい第三者


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