肝試しも終了し、各々部屋に戻ったり何人かは食堂で雑談をしていたりどこかをうろついていたりと自由に過ごしていた。平古場は木手から梨胡に関する情報を貰ったあと、特にやることもなかったので適当に散歩していた。廊下の電気はところどころ消えていて、合宿所は全体的にもう就寝の空気を持ち始めていた。そろそろ部屋に戻ったほうが良いかと思ったその時、自販機がいくつか備えられているところにあるソファに二つの影を見た。華奢な影と、すらりとした影だ。
「………合宿もあと二日で終わりだね」
 その声に平古場はどきっとする。不二のものだ。そこで平古場はもう一つの華奢な影の正体が分かった。
「梨胡はこのまま高等部に進学するつもりなんだよね?」
「…、まあね」
 ずしり、胸に重しがあるような錯覚。なんだかんだで彼女の隣に座れる不二に、どうしようもない嫉妬が生まれる。
「そっか。嬉しいな。同じクラスになれると良いね」
「進級試験も受けてないのに気が早いね」
「………ねえ」
 不意にそれまでとは打って変わる不二の声音に、梨胡の体が強張った気がした。
「僕はあの時の気持ちのまま変わらないよ」
 空気が張り詰めたのがよく分かった。平古場の心臓が凍りつく。梨胡の息を呑んだ音が聞こえた。
「梨胡、もし君の気持ちが少しでも僕に傾いてくれていたのなら、もう一度…」
「ごめん」
 梨胡が立ち上がる。
「私、手塚に呼ばれてたんだった」
「梨胡…!」
「ごめん、本当に。それじゃ」
 去る梨胡。こちらに来なかったのが幸いと言えようか。どきどきと不安に鳴る心臓を押さえつけ、平古場は耳を澄ませる。梨胡の遠退く足音と不二の呼吸音しか聞こえない。それを聞いて、最悪な場に居合わせてしまったと後悔した。
「…ねえ、いるんでしょ」
 不意の不二の言葉に、びくりと肩を震わせる。無言でいると不二は小さく笑った。
「嫌だな、君にこんなところを見られるなんて」
 それは昼間の毅然とした彼とは程遠い、気弱な声音だった。平古場は何故か先の肝試しを思い出した。
「悔しいなぁ………」
 彼からぽんと浮き出たその言葉に、平古場は何も返せなかった。
毒牙を優しく突き立てて


|
/top