『梨胡はきっと、僕と付き合って後悔してる』

 それは、肝試しの時に不二から言われた、梨胡に関しての唯一の言葉だった。
 平古場は肝試しの際、下手に遠回しに訊いても無意味だと悟り直球に梨胡と彼が別れた原因を訊いたのだ。そして不二が唯一紡いでくれた言葉がそれだったのだ。意味が分からなかった。何故梨胡が不二と付き合って後悔したのか、さっぱり分からなかった。不二は男の平古場から見ても顔の造形が整っていると見えるし性格も良いほうだし、自分よりも大人びていて女の子の理想の塊だとも思う。それなのに、彼は梨胡が後悔していると言った。
 どういう意味だと、平古場は問うた。

『さあ……どういう意味だと思う?』

 不二は逆に聞き返してきた。平古場は答えることができなかった。
「………ぬーがよ………一体…」
 当人が分からないことを他者が分かるわけがない。
 平古場はとぼとぼと歩いた。不二の一言が頭の中を巡る。いっそのこと木手に訊こうかと考えたが、そういうことは自分で考えろと言ってきそうな気がしたためやめた。頼みの綱の非協力的な様を思い浮かべ、はぁ…と溜息をつく。
 そんな折。「………っ…」嗚咽を噛むような声が聞こえた。
「………っ越前………?」
「!?」
 暗闇の中、梨胡が目元をごしごしと擦っていた。平古場に気づいた梨胡は慌てて頬を濡らす涙を拭って、なんでもないようないつもの無表情を見せる。
「………………やー、何でそんな後悔してんの」
 つい、本音が漏れた。しまったと思ったところで、梨胡の驚愕の表情が変わるわけではない。きっと梨胡は平古場が何に対して言っているのか察しているのだろう。だからこそ顔色をこんなにも変えたのだ。どんな感情であれ、不二が梨胡の心を乱している事実に平古場はこんな状況にもかかわらず、彼に嫉妬した。
「………私が悪いから」
 やがて蚊の鳴くような声で彼女が答える。
「私が不二の告白を断っておけば、不二は傷つかずに済んだから」
毒牙を優しく突き立てて


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