平古場は後悔していた。
「ちょっと、さっきから何をしているんですか。邪魔です」
 木手に辛辣な言葉を吐かれても、それに構う余裕なんて無い。
 (絶対…嫌われた……)いくらなんでもあの場面で梨胡を抱きしめたのはいけなかっただろう。もう変えられない過去に平古場は唸る。
「凛、きさ(さっき)からどうしたぬ?」
 知念の不思議そうな声に返事さえできない。平古場の頭は梨胡でいっぱいだからだ。次会う時何て顔をすればいい、何と謝ればいい、何と、何と………。
 解決策は、浮かばない。
「平古場くん、うるさいんでちょっと出ていってもらえますか」
 げしっ。乱暴に背中を蹴られて部屋から追い出される。すると
「あい?ぬーしてんだ、凛」
 丁度帰ってきた甲斐が目の前に。そして
「えっ……越前っ!?」
 彼の隣には梨胡がいた。さっき平古場が抱擁していた時ほど梨胡の目は赤くなっていなかったが、それでも一目見て先程まで泣いていたことが容易に察せられた。
「……あ、えっと……」
「あー凛、わん、永四郎に呼ばれてたんだったぁー。つーわけで梨胡を頼んだやー」
「なっ…!?」
 面倒事はごめんだとばかりに甲斐は部屋に入ってしまう。取り残された平古場は梨胡を無視して去るわけにはいかず、とは言ってもどうすれば良いのか解決策も浮かばずにあたふたした。ただ沈黙だけが続き、両者共に行動を起こせずにいた。
そのあたたかさに生かされている


|
/top