合宿四日目の早朝、平古場は夢と現の狭間にいた。所謂“半分起きている状態”だ。平古場クン起きなさいよという木手の呆れた声にも生返事をすることしかできなかった。「永四郎、永四郎、かふー(良いこと)思いついた!」「何ですか?………ほぅ、それはそれは」木手と甲斐が話し込んでいるが、そんなこと平古場の意識は捉えておらず、枕を抱き締めて再び甘い眠気の中へ向かった。
「………………ンぅ…」
 暫く室内は静けさが支配した。だがそれは不意にパタンと鳴った小さなドアの開閉音により破られる。しかしその音は平古場を現へ浮上させるには至らなかった。
 (………?)だが直後、平古場の鼻腔は柔らかい、優しい匂いを捉えた。それはまるで彼女のような………。
「平古場」
 優しい、ふんわりとした声。
「平古場、起きて」
「………んー………」
「ひーらーこーばー」
 比嘉の連中はこんな可愛らしい声じゃないし、こんなに高くないし、そもそもこんな優しい起こし方はしない。(………え…え、え、…え!?)まさか、と思い平古場は目を開ける。
「起きた?平古場」
「………」
「平古場?寝ぼけて…」
「ぎあぁぁあぁああぁあああ!?」
「!?」
「ぎゃはは!いなぐビビってるし落ち着けー!」
 梨胡の背後で笑う田仁志に構う余裕なんて無く、平古場はベッドのすみまでズザザザと後退した。
「なっなななな何でやーがくまんかい(ここに)!?」
「永四郎と裕次郎が呼んだんだばぁよ」
 知念の言葉に平古場は唖然とする。ふと見たらドアから顔を覗かせている木手と甲斐がいた。二人共意地悪そうにニヤリと口角を上げている。(こっの………!)梨胡に起こしてもらって嬉しいと思いつつ、顔を洗ってなければ髪だってセットしてないのにと自分の身だしなみがとても気になる。慌てて跳ねた髪を撫でつけたが、あまり意味が無かった。
「もうすぐ朝食の時間だから、早く着替えて食堂に来て」
「お、おー………にふぇー…」
「え?」
「あ………………ありがと」
 唇を尖らせて言うと、梨胡はふっと微笑みどういたしましてと述べて部屋を出た。パタンとドアが閉じたのを確認して、平古場はギッと木手を睨みつけた。
「〜〜〜〜〜っ永四郎!!」
「何を怒っているんですか、平古場クン。梨胡クンに起こしてもらって嬉しいでしょう。新婚みたいとか、ちょっと想像したんじゃないんですか?」
 確かにもし一緒に暮らしてたらこんな風に毎朝優しく起こしてくれるのかなーとか思ったり…。
「そっそんなわけねーん!?!」
 ちょっとドキッとしながら否定したが、木手はニヤニヤしたまま「どうだか」と呟いた。
「それに梨胡クンに君を起こしてもらおうと提案したのは甲斐クンですよ」
「そうやっしー!凛、わんに感謝しろー!」
 腕を組んでわははと盛大に笑う甲斐を、平古場は素直に怒れなかった。そう、嬉しかったのは事実なのだ。しかしそれを素直に出すのは気恥ずかしかったので、平古場はプイッとそっぽを向くと寝巻きを脱いだ。
魔法の言葉


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