梨胡の黒髪は柔らかくて、しなやかで、いい匂いがした。髪を櫛でかき上げると白いうなじが見えてぞくりと背中が粟立った。だが隣にはニヤニヤした甲斐がいたのでできるだけ冷静に結い上げた。お団子になった髪をネットで包み、後れ毛をピンで止める。その時平古場はポーチの中にシュシュを見つけた。「………、」好きに使って良いと言われたし、別に良いかな?と思い、平古場は最後にお団子をシュシュでまとめた。
「…できたさー」
「やー、じゅんに手際良いな」
「すっきりしたよ。ありがとう」
 見慣れない姿の梨胡。髪をアップにしただけでここまで違うのかと、平古場は驚きを禁じ得なかった。
「ち…」
「え?」
「ちゅらかーぎー………よ」
 ぷっ、と甲斐が噴き出す。だがそれに悪態をつけるほど余裕は無かった。恥ずかしさや何やら色々ごちゃ混ぜになって、顔が熱くなりそっぽを向く。
「え、と…?」
「くくっ………凛はな、可愛いよって言ったんさ」
 そう甲斐が告げた途端、梨胡の頬が桃色に染まった。
 ぞくっ。脊髄を撫でられたのかと錯覚してしまうくらい、平古場の中で何かが走った。もう可愛いとかそんな言葉で片付けられない。今この場でかき抱きたいくらい梨胡に触りたい。「…んじゃ、邪魔者は退散やっしー」おどけたように言って食堂から出た甲斐に一言くらい文句を言ってやりたかったが、梨胡の前ではどうでもよくなった。
「あ………えっと…」
「…っ」
「ありがとう…」
 梨胡のはにかんだその顔を、平古場は一生忘れないだろう。
魔法の言葉


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