突然、夕立に襲われた。梨胡は慌てて洗濯物を片付ける。少し湿っているため、これは室内でまた干したほうが良いなと考える。やれやれ、一つ仕事が増えたと溜息をつき、洗濯カゴを持った。
「姉ちゃん、それどうしたの」
 廊下にてばったり弟と出くわす。前髪が濡れている。雨に打たれたらしい。
「洗濯物、少し濡れたから中で干そうと思って…………それよりリョーマ、髪が濡れてる」
「ああ、さっきまで外にいたから」
 濡れた箇所を拭おうとしない弟に焦れったくなり、梨胡はハンカチをポケットから出して彼の額や髪を無理やり拭いてやった。突然の姉の行動に恥ずかしくなったのかリョーマは逃げるように顔を背けたが、梨胡はしっかり顔を押さえた。
「ちょっと……良いって」
「何が良いの。放っておいたら自然乾燥しとくでしょ。それじゃあ風邪ひくって何回言ったら分かるの」
「…………ちぇっ」
「お風呂からあがった後もドライヤーで乾かしてる?私がしなきゃいつまで経ってもやらないんだから」
 無反応な彼に、やってないんだなと悟る。
「…………姉ちゃん、ずっとリョーマの傍にいてやれないんだからそのくらいちゃんとしなさい」
「はぁーい」
 ちゃんと聞いているのかいないのか分からない返事をする弟に、梨胡は溜息をつく。
「仲がええんじゃのう」
「わッ…に、仁王」
 一体いつから背後にいたのか、驚いて振り返れば「済まんのう、ビビらせたか」と仁王は笑った。それから「そんな顔もするんじゃな」梨胡越しにリョーマを見る仁王。すると不機嫌そうにリョーマがそっぽを向く。先輩に取る態度ではないが、彼の場合誰にでもそんな態度なのでもう咎めなかった。
「チビは意外とお姉ちゃん子らしい」
「そうなるのかな。仁王は?お姉さんいるんでしょ?」
「………プリッ」
 それ以上訊くなと言わんばかりに擬音語を呟かれたのでやめた。「姉ちゃん、これ運ぶんでしょ?早く行こう」リョーマがカゴを持って、もう歩き出そうとしていた。一体いつの間にと慌てる。
「あ、そうだった……それじゃ、仁王」
「おう」
 素っ気ない弟の性格はどうにかならないものなのかと思ったが、どうせ無理だろうと梨胡は彼の小さい背中を見つめ苦笑した。
誰にでも優しくしないで


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