「あれ?平古場に甲斐だにゃー」
広間にいたのは梨胡だけでなく、菊丸など数人が寛いでいた。ゲッと思ったが今更引き返せない。
「そういや自分ら、食事が終わると部屋戻ってまうけどいっつも何してんの?」
そう訊ねてきたのは忍足謙也であった。他の者たちはもう平古場たちに興味がないのか各々好きに世間話をしている。
「あ、ああ、わったーはトランプゲームとか色々…」
まさか恋バナをしているだなんて言えない。
「ふーん」
「なーなー、やーンとこぬ部長、ぶっちゃけ梨胡に気ィあるよな?」
(裕次郎ぶっちゃけすぎィィィ!!)
「え?あー、多分な!」
(答えるのかよ!!!)
「やー部長ぬこと応援してんぬ?」
「俺は正直恋愛とかよう分からんし、なるようになったらええんちゃうって思ってんで。越前さんとはあんま話したことないしなぁ。てかむしろちょっと苦手かも」
「え?何で?割と可愛くね?」
「そら見た目はええけどさ、なんか雰囲気的に勝てる気がしィへん。近づきがたいっていうか…高嶺の花っぽいやん」
「あーなんかちょっと分かる!」
「せやろー!」
(何でこいつらこんな親しいの??)完全に置いてけぼりを食らった平古場は沈黙するしかなかった。(つか忍足、越前さんのこと苦手なのか)気がある平古場にその気持ちは理解できなかったが、確かに平古場も梨胡には勝てる気がしない。
「平古場」
「に゛ゃっ!?」
「!?」
不意に声をかけられて変な声が出た。梨胡の前でとんだ失態だが、梨胡は面白そうに小さく微笑んだだけだった。引かれてはいないらしい。
「(やっべー!)ぬ、ぬぅよ?」
「みんなに飲み物配ってるんだけど、平古場もいる?」
「え、あ…も、貰う」
「はい。甲斐たちは?」
「あー……貰っとく」
甲斐は謙也との話に花を咲かせているため、平古場は二人の分の飲み物を貰った。梨胡は菊丸の元に戻ってしまうかなと思ったが、彼女はどういうわけかそのまま流れるように平古場の隣に座る。(え?え?)何で、どうしてと当惑したが思わぬ幸運に心臓はばくばくと早鐘を打つ。
『なー(名前)すら呼べてねーんのに満足してるんだ…』
(う、わ)知念の言葉が蘇る。
言わなきゃ。呼ばなきゃ。お願いしなきゃ。
「あ、あのっ」
「え?」
「なっ…名前で呼ばせてください!」
瞬間、血の気が引いた。(あ゛)これでは唐突すぎて何の名前か分からない。(最悪)絶対に変に思われた。急に馴れ馴れしくしてきてヤな奴だと思われた。顔が上げられない。
しかし。
「私のこと?良いよ」
「えっ」
「えっ」
「あっ、もしかして違う?」だなんて照れて言う梨胡がとても可愛らしい。(…いやいやそうじゃなくて)彼女はなんて容易く許してくれるのだろう。
「ま、マジで良いの?」
「良いよそのくらい。苗字だと弟と判別つきにくいし」
あなたは神か、と平古場はこの時感激した。
「じゃ、じゃあっ、これからは名前で呼ぶから!!」
「あはは、どうぞ」
顔が真っ赤なのだろうがこの時の平古場は構ってられなかった。梨胡の背後にいる甲斐がニヤッと笑ってきたのも見逃せるくらい、平古場の気持ちは高揚していた。
もう心臓は潰れそうだ
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