最終日、朝。平古場は準備運動をしながら、壇や他のマネージャーたちと一緒にコート整備をしている梨胡をぼんやり見た。今日であの姿が見納めになるだなんて考えられない。昨夜は名前を呼ぶ許諾を得ることに成功した。今日は、何をすれば良いだろう。どうすればこちらを見てくれるのだろう。
「ちょっと平古場クン」
「うっ」
「気持ちは分かりますけどこっちに集中」
 ごきっと首を回され、鈍い痛みが首筋に伝う。この野郎と思ったが木手の言っていることは正しいので口ごたえはしなかった。
「凛」
 ふと知念に声をかけられたので平古場はそちらに首を傾ける。
「連絡先」
 単語だけ出てきて何のことか疑問に思ったが、平古場はこの連絡先が梨胡のことを指しているのだと感づいた。(…のヤロ)それは最難関だということを知念は分かっているのだろうか。
「凛、やるしかないやー」
「…かしまさん(うるせぇ)」
 甲斐のにやついた顔に今度こそ平古場は口ごたえた。

 最終日だからか今日はずっと試合形式のゲームが続いた。勝ったり負けたりを繰り返している平古場は、甲斐が出ている試合を横目に試合終了した選手にタオルとドリンクを渡している梨胡を観察していた。勿論平古場も試合が終わった直後は彼女の元にそれらを取りに行ったものの、結局何も話すことができずに梨胡から離れてしまったのである。
「よ、平古場くん」
 とここでどういうわけなのか白石が話しかけてきた。
「…ぬぅよ」
「そんな怖い顔せんでええやん。最終日やねんし折角やからちょっと話そうや」
 話すとは一体何をだろうか。白石とは殆ど会話したことがないしましてや二人きりになったことがない。彼と共通の話題とはいえばテニスとあとは…。
「自分、越前さんのどこに惚れたん?」
「ぶっ!?」
伝えられないもの


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