「あのさ」
 白石が、急に声音を落とす。
「気持ちを伝える気、ある?」
 その言葉にどきっとする。白石は真剣な顔だった。多分彼は、気持ちを伝える勇気を持っているのだろう。―――自分と違って。
「わん、は………」
 気持ちを伝えるというところまで近づけていない。今そんなことを言ったって、きっと梨胡の迷惑になるに違いない。
「平古場くんて、ホンマ………俺の想像と結構ちゃうねんなぁ」
 黙っていれば白石が感心したようにそう述べた。
「…どんな風に想像してたんだよ」
「平古場くんはもっと恋愛に慣れてるもんやと思ってた」
「別に……部活してたらそんなんする暇ないさー」
「やんな。俺もそやった」
 はは、と笑う白石につられて平古場も口角を上げる。だが胸中はあまり笑える気分ではなかった。白石のあの真剣味を帯びた表情を見れば、余裕なんてなくなる。
 どうすれば気持ちを伝える勇気を持てるのだろうか。
「やーは…自分に自信があるんか?」
 思わず、訊いた。白石は驚いた顔をした。「まさか」今度は困った顔。表情豊かな人間だ。「そんなんあるわけないやん」そして先程とは打って変わって自信なげなそれ。
「自信ないのに、言うのか?」
「俺別に言うなんて一言も………まあええわ」
 ふう、と息をつく白石。目を伏せるその仕草は不思議と綺麗で、地元ではさぞ女の子に人気なのだろうなと平古場は思った。
「俺はさ、高校行ってもテニス続けるつもりや。勿論、今の学校でな。でも越前さんがこのまんまマネ続けてくれるかどうかは分からんし、またこうして合宿や試合を通じて再会できるかも分からん。全国出場をもう一度できる保障なんて、どこにもないやん。だからな、自信なくたって“言い逃す”ことはしたくない」
 そうだ。県が違う。地方が違う。ましてや沖縄は本州じゃない。大阪のように東京には新幹線で行けない。旅費がかかる。これから先、高校生になって旅費をホイホイ出せる程平古場の家は特別金持ちでもない。
 それになにより、“このチーム”はもうすぐ終わる。
 本当に、最後なんだ。
「平古場くんだって、後悔したないやろ」
「そんなん当たり前やっしー………」
 でも。
 その時、笛が鳴った。午前練習終了の笛だ。「あ、行かな」白石の慌てた声に漸く平古場は現実に戻ってきた。
「時間取らせてごめんな」
「いや、にふぇー(ありがとう)。やーと話せて良かったさー」
 そう言えば白石はまた驚いた顔をしたが、すぐに微笑んだ。やっぱり綺麗だった。
伝えられないもの


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