夕食の席はくじ引きだった。他校交流が目的らしく、面倒なことをと平古場は思った。しかも比嘉の皆とは別れてしまい、更に正面には不二が座るときた。
「はぁ…(最悪………)」
「どうしたんだい?元気無いね?」
 ふ、と微笑みながら訊ねる不二を平古場は思わず睨む。誰の所為だと言いたかったがそれは己のくじ運だと思い至り、平古場はますますへこんだ。
「…そういや、わんの隣ってたー(誰)がいいんぬ?」
「まだ来てないですね」
 平古場の言葉に答えたのは不二の弟である裕太だった。不二兄弟はどういう因果か席が隣同士なのである。
「この場にいない人といえば…」
 不二がそう呟いたその時、タイミング良く誰かが平古場の隣の椅子に手をかけた。
「ああ、梨胡だったの」
「ん?うん。何?」
「いや誰が座るのかなと思って。ね、平古場………………平古場?」
 神様ありがとうございます―――平古場はこの時、心から感謝した。
「………まあこの席に座るの、元々知念だったけどね」
「そうなの?」
「私が座る筈だったところの近くに話したい人がいたらしくて、交換してほしいって言ってきた」
 梨胡と不二の会話に平古場は驚く。知念を探すとここのテーブルから少し離れたところにいて、こちらを見てグッと親指を立てた。気を利かせたつもりなのだろうか知念の表情は少し晴れやかだった。感謝すべきなのは神ではなく知念だったのだ。
 彼の厚意を無下にするわけにはいかず(正直かなり嬉しかった)なんとか梨胡と話そうと試みたものの、
「クスッ。梨胡、今日は大丈夫だった?疲れてない?」
「疲れてないよ」
「水分はこまめに摂るんだよ」
「分かってるよ」
 こんな感じで不二が梨胡にずっと話しかけていた。
「(な、何やんばーよもー!!他校と交流すん為にくじ引いたっつーのに全然喋れねーんや!)…〜〜〜〜っ!!」
「……平古場」
 もやもやしていたその時、どういうわけか梨胡自ら話しかけてくれた。それも不二との会話を中断して、だ。
「全然食べてないけど、食欲無いの?」
 そう指摘され、平古場は箸が進んでいないことに気づいた。何を話そうかと考えている内に食事さえも忘れていたのだ。梨胡の表情自体はあまり変化無いが、瞳が心配そうに揺れていたのが分かった。
「な…なんでもない、ちょっとボーっとしてただけ…」
「……そ。昼間もこけてたし、体調悪かったら無理せず言って」
「わ、分かったさ」
 見ていてくれたのが嬉しい。覚えていてくれたのが嬉しい(こけたという無様な姿だったがそれはまあ、置いといてだ)。心配してくれたのが嬉しい。こっちを見てくれたのが嬉しい。そういう喜びと共に、折角心配してくれたのに返答が素っ気なかったんじゃないのかとか、まともに目も見ずに話されて気分を害してしまったんじゃないのかとか不安が溢れ出した。
 ふと前を見ると不二がじっとこちらを見ていた。何か言いたげな目だった。それがよく分からず、平古場は首をかしげるしかなかった。
 結局その日の梨胡との会話はそれだけで終わってしまい、話すことは無かった。
苦味と甘味


|
/top