合宿二日目、その日は丁度青学と練習試合で、十五分休憩を同じフェンス内で過ごしていた。
「凛、行くぞ!」
 唐突な誘いに平古場は虚を衝かれたものの、昨夜甲斐が言っていたことを思い出して彼の後に続く。まず最初に甲斐が訪ねた人は手塚だった。「ちょっとやーに訊きたいことがあんだけど」その一言から甲斐は躊躇いも無く話し出す。
「やーンとこのマネージャーさ、好きなものとかあんの?」
「好きなもの、か?何故そんなことを訊く?」
「いやー最近世話になっちょーさーし、ぬーがらお礼でもしたいと思って」
 甲斐の回答に手塚は納得したのか、顎に手を添えて考える素振りを見せた。平古場は自分の心臓が高鳴っていることに気づいた。
「そういえば猫を飼っていると聞いた」
「猫?」
「ああ。好きかもしれないな。そういうことは越前…弟のリョーマに訊いたらどうだ」
「うーん、でもあぬひゃーが素直に教えてくれるとはとても…」
 甲斐の渋った声に手塚は「その心配はない」と述べる。
「弟はあれで姉思いだからな。姉に礼をしたいことをきちんと説明すれば教えてくれると思うぞ」
 目的は礼ではないので平古場は胸が痛んだ。だがいつかきっとちゃんとお礼をしようと心に決め、平古場たちは手塚と別れる。


「猫?ああ飼ってるけど」
 越前弟はかなり怪訝そうな顔をして頷いた。何で知ってる?という疑問が顔に出ていたので、甲斐が手塚から聞いたと説明してくれた。そのあとすぐに横腹をつつかれる。成程自分で訊けと言っているらしい。
「あー………あのさ、あぬひゃー…越前はさ、その、猫以外に好きなもんとかあんの?あ、例えば色は何が好き?」
「………………………」
「?………ぬ、ぬーがや?」
「………あんたさぁ」
 するとそれまで怪訝そうだった越前の表情が、ニヤッと意地悪なものに変わる。
「………姉ちゃんのこと好きなの?」
 嘘の理由を言う前にあっさりと核心を衝かれた。驚きのあまり何も言うことができず、口ごもる。
「ふーん、そうなんだ…」
「まあまあ、あんまりいじめてやんなよ。凛はこれでヘタレだからさ」
「よっ余計なこと言うな!」
 にやける甲斐を睨むが、あまり意味が無かった。
「別に好きなものとかじゃなくて好みのタイプとか訊いたほうが良くない?」
「凛はそんなことを訊く勇気無いさ」
「そんなことねーん!」
「じゃあ教えてあげようか?」
 挑戦的な笑みを浮かべるリョーマに平古場は多少たじろぐ。だがそれは非常に興味があったため退かなかった。
「直接聞いたわけじゃないんだけど、姉ちゃん、一年の時に付き合ってた男子がいたんだ」
 予想外の言葉に平古場だけでなく甲斐も目を見開く。
「うり(それ)って、たー(誰)?」
 平古場の代わりに甲斐が訊く。次にリョーマの口から出てきた名前に、二人は驚きを禁じ得なかった。
「………不二先輩だよ」
ラズベリーよりもすっぱい恋


|
/top