仕事とプライベートは線引きしろ


「あの…ありがとうございました…えっと、河上さん?」
「河上万斉でござる。初対面であったな」
「はい」
 全てを終わらせたその場所から早々に退散し、燕たちは人通りの少ないところにぽつんと建っている庵に身を寄せていた。この辺りに人はめったに来ないから安心できるらしい。
「あのー、何で助けてくれたんですか」
「助けてほしくなかったのか?」
「いやそういう意味じゃなく」
「……お前は知らなくていい」
 素っ気なく言うと高杉はそっぽを向いて煙管を吹かした。相変わらず分からない人だなあと思っていると、河上が押し殺したような笑い声をあげた。それに反応するように高杉は彼を睨みつける。
「燕」
 気を取り直して言う高杉に、燕は「はい」と返事をする。
 ことん。と畳の上にある物が置かれる。装飾された鞘、誤って刀身が出てしまわないように紐が括りつけられている。
「何で…」
 小刀なんか――という言葉は出なかった。
 動揺して自分を見つめる燕を、高杉はただ静観していた。理由は分かってるだろ、と言いたげな視線に燕は何も言えなくなる。そこまで彼と自分の関係は危ういものなのか。そこまでして彼が自分を繋げようとする理由が分からない。
 暫くすると高杉は無言で出て行った。取り残された燕は茫然と小刀を見つめ続けた。
「まあそんなに思い詰めることはないでござる」
 そんな中面白がった声音で河上が言ってきた。
「いざという時用でござる」
「これで人を刺せと?」
「正当防衛でござる」
 ぐ、と詰まる。そう言われてしまえば言い返せない。
「晋助は本当に貴殿のことを心配してるのでござる」
 まさに追い討ちであった。諦めたように項垂れる燕を、河上は微笑まし気に見た。
 その日は彼に送ってもらい、燕は無事帰宅した。途中黒服の連中と出くわしそうにもなったが無事帰宅できたと思う。
 とにかく疲れたので休みたかった。「…あれ」自分の持ち物である部品の一部が無いことに気づいたがまあ良いかと改めてから源外への詫びは明日にすることにし、燕は小刀を机上に置いて風呂場へ直行した。
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