第一印象は大事、だけれども


 こんなところに花屋があったのかと、燕は脚を止める。色とりどりの可愛らしい花がたくさん陳列されていてとても和む。
 からくり堂には仕事に必要な道具しか置いていない。少しは色のあるものを置いても良いのではないか。そう思い至り、燕は店に入ろうとした。
「燕ちゃァァァァァん!?早まんなァァァァ!!」
 が、それはものすごい力で阻止された。
「よ、万事屋さん…?」
「待て燕!何かつらいことがあんのか!?相談乗るから!だからその若い命を散らそうとするな!!」
 (何を言っているんだこの人は)自分はただ花を買おうと店に入ろうとしただけである。それが何故命を散らすことに繋がるのだ。
 怪訝そうな燕を肩をがっしりと掴み、銀時は説得する。しかし見当違いをしているので燕は彼の言葉をまともに聞かなかった。視線は花に注がれている。もっと花が見たいと思った燕は銀時の手を剥がそうとするがうまくいかない。それどころか彼は更に強く掴んできた。
「馬鹿野郎!一人で抱え込んでんじゃねー!」
「…あの、さっきから何言ってるんですか」
「だってお前が自殺しようとするから…!」
「あっしは花が見たいだけです」
 冷静に燕が述べると彼は「へ?花?」と首を傾げた。
「そうです。だから花屋に入ろうとしてるんじゃないですか。それが何で自殺に繋がるんですか」
「おっお前…まさか知らないのか…?」
「何がですか」
「とにかく離れるぞ。ここは…」
「おや坂田さんじゃないですか」
 突如降りかかった低くて野太い声。瞬間、銀時の動きは完全に停止した。不思議に思い、燕は振り向く。
「……―――…、え」
「おや、こちらのお嬢さんとは初対面ですね。はじめまして、屁怒絽と申します」
 なんとも形容し難い容貌の怪物が立っていた。何故か頭のてっぺんに花を咲かせている。
「あなたの名前を教えていただけませんか?」
「、霧島…燕です」
「霧島さんですか。坂田さんとはお知り合いなのですか?」
「はいまあ…」
 意外にも丁寧な口調に燕は拍子抜けした。案外話が通じるらしい。
「あ、ああああの、この子僕の友達なんです〜」
「そうなんですか。いやぁこんなに可愛らしい女性とお友達だなんて、坂田さんが羨ましいですよ、ははは」
「(ね、狙ってやがる!燕を狙ってやがる!)そうですかねぇ、あはは…」
 銀時の動揺ぶりに燕は軽く引く。一体何があった。しかし屁怒絽はそんな彼に気づいていないようで、燕に微笑んでいる。
「屁怒絽さんがここの店主をやってるんですか?」
「そうですよ、折角なんで覗いていってください」
「いやぁ済みません!僕たちこれから用事が…」
「あ、良いですか。じゃあお言葉に甘えて」
「燕ちゃァァァァん!?」
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