他人の空似と油断するな


「あれ」
「…はい?」
 銀髪の男・坂田銀時から漏れ出た言葉“あれ”とは決して指示代名詞ではない。感嘆詞のほうの“あれ”である。そしてその言葉を受け取った女は、どうやら彼の言葉を後者と認識したらしく「何でしょう」と訊ねた。
「どちらさん?」
「人の名を訊く時はまず自分からでしょう」
「え、なにこの子。おいジジィィィィィ!!この子アンタの子!?」
「営業妨害ですねェ。警察呼びます」
「ウソッ!?」
 受話器を取る彼女の手を押えつけ、銀時は懐から名刺を取り出した。そして改めて自己紹介をする。が、名刺まで受け取ったというのにこの女、いまだ訝し気な視線を止めようともせず、ただ銀時を睨みつけるばかりであった。
 「俺名乗ったんだからお前の番だろ」少し不機嫌に銀時が急かすと、彼女は気づいたのかそうでしたねとのんびり言った。
「申し遅れやした。あっし、ついこの間からここで働かせていただいています、霧島燕といいやす。以後よろしくお願いします」
「ふーん、燕ちゃん、ね。何でこんなところで働いてんの?女の子ならオシャレなカフェとかのほうが良くない?あ、もしかしてここの時給良いの!?だったら俺も働いて…」
「うるせえぞ銀の字!!スクーター直さねえぞ!?」
 ガコーン!と彼の銀の頭にスパナが飛ぶ。「いってえな何すんだ!ねえタンコブできてない!?血ィ出てない!?」「あんたの駄目さ加減が漏れ出てまさァ」「燕ちゃんさっきから毒舌すぎない!?俺たち初対面!初対面だから!!」一々うるせえな――言葉には出さずとも、燕の表情がそう物語っている。なんて失礼な子なんだ。
 すると源外が燕に一方的にまくしたてる銀時を引き剥がし、彼女について説明する。
「そいつは燕。上京してきてな。行くところが無いらしいから雇ったんだ」
「へえ」
「絡繰に興味があるらしくて、ガキの頃から色々造ってんだと」
「じゃあここなんか天職だな」
 燕を見てみると、既に銀時に対し興味は無くなっているらしく部品をいじっていた。
「ねえなんなのあの子。俺に興味無さすぎじゃん」
「モテねえなぁ銀の字」
「うるせェェェェ!」
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