他人の空似と油断するな


 あれからスクーターを直してもらった銀時は、やることも無いのでいまだに部品をいじくる燕をなんとなく眺めていた。
 淡い栗色のレイヤーの入ったショートヘア。涼しげな目元。薄桃色の唇。線の細い体。一見するとまあ可愛らしいのだが、口を開けば毒ばかり吐く先程の様子を思い出し、銀時は苦い笑みを浮かべた。もっと愛想を振れば人も近寄ってくるだろうに、何故彼女はあんなにもつっけんどんしているのだろう。
「…あのスミマセン」
「ん?」
 ふ、と淡い栗色の髪を揺らし、燕は銀時に顔を向ける。
 (……――あれ?…)その瞬間、妙な既視感を覚えた。(この、姿は…)
「あまり見ないでほしいんですが」
「……、」
「あのー」
「…っえ?」
「いやだから、早く帰ってください」
「違うよね?さっき見ないでほしいって言ったんだよね?」
「なんだ聞いてたんじゃないですか」
 相変わらずの無表情に、銀時は真剣な表情を向ける。それが奇妙だったのか燕は僅かに眉をひそめた。
「…また来るわ」
 燕の怪訝な顔を指摘せず、銀時は彼女の顔を見ずにからくり堂から去る。
 速いスピードで町を過ぎて行っても、どういうわけか目蓋の裏には燕の姿が張り付いていた。
prev | top | next
back