肝心なところでこけるのはよくある話
「……どういうことだ」
某所、紫煙の舞う路地で、男は不可解そうに呟いた。もう一人のサングラスの男はそれに答えることができない。彼もまた、紫煙の男と同じように疑問を抱いていたからだ。
一体どこから彼女の情報が洩れていたいたというのか。そもそも何故今更彼女を拘束する必要があるのか。疑問は山ほどあったがまず最初にやるべきことは、どうやって彼女を助け出すかだった。
「…船に乗り込んだところを見られたのでござろうか」
もし奴らが自分たちと彼女の繋がりを完全に熟知していたのなら、簡単に動くわけにはいかない。自分たちを誘き出す目的で彼女を捕えた可能性がある以上、迂闊に動けばますます彼女の疑いを強めてしまう。それは避けたかった。
「俺たちは動きにくいな」
「そうでござるな。…では別の者の意見を訊くのはどうでござろう」
「そりゃァ良い」
サングラスは背負っている三味線を僅かに動かす。途端、暗闇にピンと弦が張った。すると呼応するように何者かの戸惑ったような足音が聞こえた。
「そろそろ出てくるでござる」
「…………(バレてたか)」
おずおずと出てきたのは、真選組監察の山崎だった。最近じっと感じる視線は彼のものだったのだ。
「フン、俺たちを監視するなんざ暇な奴だ」
「そう言ってやるな晋助。確かに最近はおぬしも絡繰を眺めては彼女のことを考えるしかしてない日々だったが…」
「何気に俺の最近を語ってんじゃねえ!つーか別にあいつのことじゃねーよ!」
「鬼兵隊総督ともあろう者が一人の女に現を抜かすのもどうかと思うが拙者は…」
「話の趣旨ズレてんぞ。つーかお前もなに見てんだ!」
「ス、スイマセン!?」
何故か山崎まで怒られた。
雰囲気を無理矢理戻す。そう、彼女の話だ。幕府の手中に入ってしまった以上、そう易々と事を起こすわけにはいかない。従って自分たち以外の者を使ってなんとかするしかない。
「…え?ちょっと待ってくださいそれって…」
山崎は黙って話を聞いていたが、聞き捨てならぬといった具合につい挙手をして口を挟んだ。ふう、と高杉は呑気に煙を吐いた。
「真選組(おまえら)ならなんとかできんだろ」
「イヤイヤイヤそんな無茶な!」
「一般人を無実の罪で投獄させんのか?いやあいつの場合投獄だけじゃ済まねえ、処刑されるだろうな。…知ってんだろ、あいつの素性は」
「! まあ…調べましたので」
山崎の答えに、高杉は更に不機嫌になる。「だがあいつは今も昔もただの女だ。一般人だ」紫煙の匂いがきつくなる。
「…一つだけ、訊いていいですか」山崎は臆することなく、質問する。
「あなたと霧島さんはどういう関係なんですか」
紫煙が漂う。そういえばたまに彼女からこういう匂いが漂ってくることを思い出し、高杉はにやりと笑った。
「…約束した」
「約束?」
「ただ、結局破っちまったがな」
懐に入っている絡繰がやけに重く感じた。