真の黒幕ってカッコいいよね


 連れて来られた場所は地下の場らしい。身体検査でも受けさせられるのかと思ったが、どうやら彼らは自分を甘く見ているらしく、そんなことはさせられず奥に進んだ。
 燕は周囲をくまなく警戒した。いつ何をさせられるか分からない。警戒していて越したことはないだろう。
「ご苦労だった」
 黒装束に笠を被った男が言う。この中では一等偉いらしく、他の者たちは低頭する。
「ふむ、本当によく似ている」
「そうなんですかィ」
「お前のほうが多少太々しい性格だが……やはりあの男の子供か」
 くつくつと喉で笑い、男は燕の顔を上げさせる。見上げるかたちになったので燕からは男の顔がよく見えた。この者とは初対面の筈なのだが、燕を見るその目はひどく燕を憎んでいた。否、燕を通して誰かを憎んでいたのだ。
「……高杉晋助」
「!」
「聞き覚えはあるか」
「そりゃまあ…大物テロリストですからねェ」
 話の意図が掴めず燕は眉を顰める。突然男は燕から手を離し、突き放した。燕は手を後ろで縛られていたので成す術もなく倒れる。
「お前を餌に連れたらラッキーだな」
 言葉からしてそれが目的だというわけではないらしい。では何故自分を捕えたのか。ただ自分が“彼”の子供だからという理由はあまりにも頼りない。もっと他の理由がある筈だ。「……父に、何か恨みでもあるんですか」静かに訊ねると、男の顔は般若のようになった。容赦ない殺気が注がれる。勿論殺気などとは遠縁だった燕は耐えられる筈もなく、体の内には恐怖が溜まった。
 しかし、ここで退くわけにはいかない。燕は負けじと男を見つめ返した。
「………あの男のもとに生まれてきたのが不運だったな」
 そう吐き捨てると男は去って行った。
 ―――あの男が黒幕なのだろうか。周囲は幕府関係者がわんさか居る。あんな捕縛のされ方をしたのだから、もっと厳格に扱われるのか思ったのだが、どういうわけかここは表舞台とは程遠いくらい暗さを放っている。何かがおかしいことはすぐに察した。
 (ミスったな…)予想以上に自分は甘かったらしい。(…見つかりそうにないか)なんとかしてここから脱出しなければならない。今の己の状況に、改めてうんざりした。
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