真の黒幕ってカッコいいよね


 ところ変わって真選組屯所。そこに入ってきた情報に皆は血相を変え、黙り込んでいた。―――霧島燕が捕縛されたという情報は、思いの外彼らに打撃を与えていたのだ。
「あの野郎中々吐かねえから…チッ…」
「トシ、過ぎたことを悔やんでも仕方ない」
 身を切るような冷たい風が吹いていたあの夜捕まえた男は、幕僚と繋がっていた攘夷浪士だった。男は拷問を受けても中々吐かなかったのだが昼間、漸く重い口を開いたのである。そしてそれは土方たちも予想だにしていないことを吐き出したのだ。
「でもあの男が言ってたことって…霧島さんは関係ないですよね」
「肉親だ。関係ないわけじゃねえ」
「でも副長…」
「今ここでそれを議論しても仕方ねえ。俺たちはそれよりもやることがあんだろ」
 結果的に、厳密に言えば男の言い分は燕に直接関係してはいなかった。彼女の通してある男に復讐したかったらしい。燕は運が悪いが故に巻き込まれたのだった。
「……でも土方さん、俺たちでどうにかできるんですかィ」
 沖田の尤もな質問に土方は厳しい表情を見せる。
 この男は国の上層部と繋がっていたのだ。警察の末端である真選組が噛みついてもまともに取り合ってもらえないのは目に見えている。それになにより、適当に罪を取り繕われたら成す術もない。
「チッ…」
 こういう時、肩書とは枷になるものだ。
 「……あれ?」その時、沖田のキョトンとした声が響く。
「どうした総悟」
「終兄さんが見当たらないんでさァ」
「終?」
 彼が物静かで目立たないのはいつものことだが…。そういえば彼は燕のことを随分と気にしていたことを思い出す。
「終?終…?」
 探してみてもあの目立つオレンジのアフロは見当たらない。ひやりと、土方の胸の内に嫌な塊が生まれる。
「ま、まさか…………」
 いやまさか彼に限ってそんなことは考えられない。土方は予想を振り払うように頭を振る。しかしそう自分に言い聞かせて斉藤を探してみても、彼を見つけることは叶わなかった。
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