ヒーローの登場って打ち合わせしていないと無理じゃない?


「………どうやら奴らのほうが一枚上手だったらしいな」
 皆が寝静まった街中で、一人の男の声が木霊する。予想外のそれに銀時は目を剥いた。
「は…え?ヅラ?」
「ヅラじゃない桂だ」
 相変わらず失礼な男だなとむくれるこの男・桂小太郎といって銀時とは旧知の仲だ。突然の登場に銀時だけでなく新八や神楽もポカンと間抜けな顔をしている。無理もない。これまで全く登場しなかったのだ、急に出しゃばってくるものなら動揺してしまうだろう。
「何なのヅラ、俺たち今お前に関わってる暇無いんだけど」
「…燕殿が捕まったのだろう」
「!? お前…!」
 知ってんのか、と銀時が目で問う。しかし返ってきたのは否であった。「…彼奴に頼まれてな。俺と燕殿は面識は無い」桂は続ける。
「彼奴?」
「まあその話は後だ。これからどうするつもりだ」
「決まってるアル!燕を助けるヨ!」
「無策で行くつもりならやめておけ。お前たちでは不可能だ」
「……どういうことだ」
 敵を知っているような口振りに、銀時は眉根を寄せる。桂は難しそうな顔をして腕を組んだ。
「彼女を連れ去ったのは非合法組織らしくてな、正式名称は無く通称“黒蟻”と呼ばれていて幕府と繋がりがあるとされている」
「どうしてそんな人たちが燕さんを…」
 不可解そうな新八に、桂は天を仰ぎ見た。
「まぁ……人の想いは強いということだ」
「?」
「彼女の父は…銀時、お前も薄々勘づいていたんだろう?」
「まあな」
「彼女の父は世間では世を狂わせた大罪人として葬られてな…それでも尚憎しみが収まらぬ、彼にプライドを傷つけられた馬鹿が今度は燕殿に目を向けたというわけだ」
 彼女の情報を売った男は真選組に捕らえられ、拷問を受けたという。一体その情報はどこから仕入れてきたんだとつっこんでやりたかったが、そんな余裕は無かった。とにかく今はその“黒蟻”とやらが居る場所に殴り込みに行かなければいけない。
「地下にあるのか、その本拠みてーなところは」
「ほう、よく知ってるな。その通りだ」
 以前は邪見にしたが、山崎から情報を貰っていて良かったと銀時は心底思った。
 場所も分かったところでさっさと行こうと万事屋は踏み出す。しかしそこで桂は待ったをかけた。「んだよ、時間がねーんだよ」文句を言うが、桂は銀時ではなく神楽を見た。
「頼みがある。リーダーは今から俺が言うところに行ってくれ」
 桂のその言葉に、全員が訝しんだ。
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