ヒーローの登場って打ち合わせしていないと無理じゃない?


 半刻後、銀時と桂は神楽、新八と別れ黒蟻の本拠に向かっていた。何故新八が神楽と共に居るのかというと、神楽だけでは説得できそうにないからである。それでも心配だなと銀時は少し後ろ髪を引かれる思いであった。
「……で、彼奴ってのは誰なんだ」
 寂れた地域まで踏み込んだところで、銀時が口を開く。
 この辺りは浮浪者も多いようで地べたに寝そべっている輩がちらほらと居た。二人を舐めるように見つめる視線がいくつかある。それに注意を払いながら、桂は述べる。
「お前もよく知ってる男だ」
「まさかと思うが…」
「ああ。そのまさか。………高杉だよ」
 ピタ。足が一瞬止まる。が、動揺を打ち消すように銀時は歩き続けた。
「何であいつが」
 そもそも高杉と燕が繋がっているというところが不可解だ。そう訊ねれば桂はあっさり教えた。
「先生が捕えられてから、俺たちが先生の奥方にご挨拶に行った時のことは覚えているか」そういえばそんなことがあったと、銀時は記憶を想起させる。挨拶が終わった後、高杉だけ別行動を取っていたのだった。銀時は歩き回るのは面倒だったから近くの茶屋で体を休めていた。
「…その時に、一度会っていたらしくてな」
「………え。燕に?」
 俺もそれを聞かされた時は驚いたと桂は微笑する。連絡も無しに行ったので、当時たまたま家を出て河原に居た燕は偶然にも銀時たちとすれ違い、代わりに高杉と邂逅したのである。
「しかし結局俺たちは巡り合った…面白い縁だな」
「まあウン、そうだな…で、何であいつはお前までパシリに使って燕を助けたがってるんだよ」
「…――約束していたらしい」
「約束?」
 先生を必ず助け出す、と。
 当時幕府に目を付けられていた松陽は家に帰宅することもできず、暫く塾で休んでいたことや塾が潰されたことにより再興に追われていたりということも相まって、燕は実子なのに松陽との思い出があまり無かった。だから松陽を助け出したあかつきには今までの文句をいっぱい言って二人で松陽をぶん殴る約束をしたらしい。
「後半おかしくない?」
「とまあそんな約束をしたのだが俺たちは結局先生を助けられなかった。奴はそれに負い目を感じているのだろう」
「いやお前、後半になんとも思わないの?」
 助けに行きたいが、自分が行けば燕が過激攘夷志士との繋がりを疑われる。それだと助け出しても意味がない。そこで桂に白羽の矢が立ったというわけだ。
「ふーん、らしくねェな」
「だろう。俺も思った………と、銀時、ここだ」
 桂の視線の先には地下に続く階段。おそらくこの先に燕が居るのだろう。
「神楽と新八、上手くやってると良いんだが」
「頑張ってもらうしかあるまい。行くぞ」
「おー」
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