度胸さえ持ってればなんとかなる


 
「………どうして助けたの」

 “百合の間”に急ぐ燕を見下ろしていたら、背後から女が声をかけてきた。「大した理由など無い」烏は振り返ることなくそれに言葉を返す。
「嘘」
 だが、答えは冷めた声音に覆される。
「そもそも何故あなたがここに居るの?」
「貴様には関係の無いことだ、骸」
 骸と呼ばれたその女は、表情を変えない。「……あの子が松陽の?」彼女の赤い目の焦点は小さくなっていく燕に注がれる。瞳は何の感情も宿っていない。
「…殺さないの?」
「殺す必要など無い」
「どうして?」
「殺される理由を、あの女は持っていない」
「そんなことを言うなんてらしくない」
 カチ、骸は鯉口を切る。気づいている?とそのまま訊ねた。烏は何を問うているのか分かっているのか「ああ」と述べた。そして烏は視線を燕から別の方向へと変える。烏が捉えたのは少し喧嘩騒ぎが起こっている場所だった。その中心には銀色があった。
「…松陽の娘だから助けに来たのだろう」
「違うと思う」
 考えを即座に否定され、烏は僅かに表情を変える。
「……あの人はそういう理由で動かない」
「じゃあ何故助けに来た」
「仲間だから。そこがあの人と高杉の違い」
 知ったような口をきく骸に鼻を鳴らすと、烏は歩き出す。もう話す気はないようだ。
「お前も早くここを去ったほうが良い。天導衆はここがどうなろうと意に介すつもりはない。不必要にここに居ればお前も疑われるぞ」
「………」
 骸はまだ何か言いたそうな様子だったが、烏はそれに構うことなくその場を去る。
 (相変わらず似ている………霧島燕)最後に彼女の背中を一瞥し、そこに黒羽を残して烏は消えた。
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