言いたいことは簡潔明瞭に


 先を急いでいた燕はあることに気づいた。
「…あれ?」
 街のできるだけ端を通っているので確かなものかは確認しずらいが、どう捉えても見覚えのある目立つ銀髪が前方にあった。しかもそれは周囲の者と言い争いをしているではないか。(多分、いや絶対万事屋さんだ)ややこしいことになったと燕は頭を抱える。おそらく彼は自分を助けに来てくれたのだろうが、それは今仇になっている。「だぁーっ!!お前らしつけーよ!……ん?」「!」ここで運が良いのか悪いのか、燕は彼とバッチリ目が合ってしまった。
「燕っ………ヅラ!!」
「相分かった!」
 シュッと風が一陣吹いたと思えば、銀時と共に居た桂は人混みから外れていた。逃げの小太郎の名は伊達ではない。
「貴殿が燕殿か!?」
「あ、あの…どういうことですかィ」
「済まんな、今は説明できん。とにかく逃げよう」
 まずい、燕は内心焦る。確かに逃げたい気持ちもあったが、それ以上にやらなければいけないことがあるのだ。ここで退くわけにもいかない。
「居たぞォ――ッ!!」
 その時、運悪く見つかってしまった。すぐに燕と桂は囲まれてしまう。しかし桂は変装していたので彼が攘夷志士だということはバレていないようであった。どう見ても桂だろうと燕は鈍い彼らにつっこみたくなったが、そんな状況ではないことを承知していた。
「燕――ッ!」
「よ、万事屋さ…」
 木刀で敵をバタバタ倒していく銀時。彼の戦う場面を初めて見た燕は、彼がこんなにも強いことに驚きを隠せなかった。
 銀時の容赦ない攻撃に囲んでいた者たちも動きだした。こんな集団戦など初めてな燕は無論、右往左往する。申し訳ないが銀時たちに護ってもらっていた。しかしそんな戦い方ではボロが出るのは必至。
「燕殿!後ろだ!!」
 桂の叫びに振り向くと、刀を振りかぶる敵がいた。―――避けられない。
 銀時や桂の声、剣戟、足音。全てが重なる。そして、敵は倒れた。

「……―――…え………」

 何故、と口にしたかったが、驚きのあまり叶わなかった。その代わり銀時が「な、なんで……」と動揺した声を出した。
 鮮やかなオレンジ。口元の巻布。いつもと違うのは黒い隊服ではなく小粋な着物を着ているところだ。
「……斉藤、さん……」
「…」
「どうして…」
“門番が気絶してたので簡単に侵入できました”
「いやそういうことを訊いてるんではなくて…」
 居る筈のない彼・斉藤は燕に手を差し出す。おずおずと燕が手を出すと、彼はぐいと燕を引き寄せた。
「アフ狼ォ――――ッ!!」
「!」
「ぜってェその手、離すんじゃねーぞ!!」
 銀時たちは燕と斉藤に背を向けている。ここは任せろということだろう。
 燕は斉藤に手を引かれ、その場から去る。途中怒号やらが聞こえたが銀時たちが黙らせたのだろう、すぐに聞こえなくなった。そのままできるだけ人の少ない道を選んで出口まで斉藤は燕を誘導する。
「斉藤さん!」
 脚に力を入れて燕は踏ん張る。突然止まった燕につられ、斉藤も止まった。
「あの…あっし、ここでやらなきゃいけないことがあるんです。だから先に逃げてください」
「…、」
「助けに来てくださったのは嬉しいけど、これ以上巻き込むわけにはいきやせん。だから…」
“あなたを置いて行くわけにはいかない”
 ぎゅ。斉藤は燕の手を握る。
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