言いたいことは簡潔明瞭に


「どうしてそこまでするんですか」
 不意の固い声に、斉藤は目を丸くした。
「斉藤さん、分かってるんですか。これ以上深入りしてもし斉藤さんの正体がバレたら、首刎ねられるかもしれないんですよ!?」
「…」
「ここは幕府が絡んでる。あっしを庇えば絶対斉藤さんの立場が危なくなる…真選組にだって迷惑かけられないし、これ以上は…」
“今ここで…”
 ここで遮るように斉藤はノートを見せる。文章が上手くまとまらないのか、ペンをふよふよと動かしながら書いていた。
“今ここであなたを置いて帰れば、確かに私は正体がバレることもなければ首が刎ねることもなく、“真選組三番隊隊長”として明日を生きられるでしょう”
「なら…」
“でも”
 “……でも”とまで書いて、斉藤はペンをギュッと握った。逆接。燕は押し黙る。彼が書き終えるのを待つが、ペンは一向に動かない。どうしたのだろうと訝しむ。
“……でも、ここであなたを置いて行けば、明日の“斉藤終”は首を刎ねられたも同然なんです”
 彼が言葉を紡ぐ。しっかりした文字で。その文章の意味を燕は推し量りかねた。“一緒に行きますZ”すぐさまページをめくり、斉藤はそう書く。そして真っ直ぐな赤い目を見る限り、燕はもう後戻りできないのだと確信する。
「…“百合の間”に、行きたいんです。このまま西に行けば辿り着く筈です」
“分かりました”
 斉藤は燕の手を引いて西に向かう。出口も西にあるから、いざとなれば逃げられないこともない。
 (このまま行けば…)これから自分がやることに彼が何と言うか……それが燕にとってたまらなく怖かった。その動揺が伝わったのか、斉藤が手を握る力を強める。先に逃げろと言っておきながら、燕は彼の存在に安堵していた。
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