言いたいことは簡潔明瞭に
丁度その頃、幸い燕たちは怪しまれることなく“百合の間”に辿り着いた。この辺りは人通りが少ないらしいようで、喧騒が遠かった。
がらり。目的の部屋の襖を開ける。部屋はとても広くて少し驚いた。「ひィッ!?」室内には臆病そうに背を丸めた中肉中背の男がこちらを伺っていた。
「なっ何だ貴様は!」
「………あなたが井久間(いくま)ですか」
「そうだが…おい女!私の質問に答え…」
燕は斉藤を放ってズンズンと井久間に近づく。井久間は咄嗟に傍らに置いてあった刀を手にしようとしたが、
「動かないでください」
燕が銃口を向けたので、奇妙な体勢のまま硬直した。
突然の燕の行動に斉藤は彼女に駆け寄ろうとする。「斉藤さんも動かないでください。動けば撃ちます」しかしそれは燕の言葉によって止められる。
“どういうことですか”
かなり動揺していたのか字が僅かに歪んでいた。無理もない、助けに来た女がまさかこんなことを目的に逃げるのを渋るとは予想だにしないだろう。
「…だから先に逃げてほしかったんですよ」
「っ!」
燕の微小な笑みに、斉藤はひどく驚いた。
溜息をついて燕は視線を彼から井久間に戻す。目が合って、井久間はビクッと震えた。そんな些細な行動が燕の癇に障る。
「…どうしてそんなに震えてるんですか?」
「な……」
「あなただって同じようなことをしたじゃないですか」
「何を言っている…私は…」
「吉田松陽…と言えば分かりますか?」
「っ!!」
井久間の気色は恐怖に彩られる。それに燕は確信した。やはり、自分が得た情報は間違っていなかったらしい。
「危険を冒して江戸に来た甲斐がありましたね」
「…き、貴様は……」
「やっと“探しもの”を見つけた…」
ガチャリ。燕はそれまで施されていた銃の安全装置を外す。
「お久しぶりです」
――――あなたが殺し損ねた吉田燕です。