自分がしたことには責任を持て


 つぅ、と頬に涙が伝う。
 その瞬間だった。ドオン!というけたたましい音と共に辺りが煙に包まれた。「ナイスヅラ!」という銀時の声が聞こえたから桂が何かしたのだろう。
「くっ、小癪な………!?」
 突如目の前にヌッと影が出現する。その中から手が出てきて燕の首に食い込んでいた刀を鷲掴んだ。その手からは血が滴り落ちる。最初は誰か分からなかったが、煙が晴れてきてその手の主が判明した。
「さ、斉藤さん…!」
「貴様っ…離せ!!」
 刀身を鷲掴んでいるから痛いだろうに、斉藤は眉一つ動かさずに刀身を握ったまま黒蟻の腹を蹴り上げた。不意打ちを食らった黒蟻は体勢を崩しその隙に斉藤が燕を抱き寄せた。尚も彼は立ち向かおうとしているのを見て、流れるように銀時が彼らの間に割って入る。「よろずやさ…」燕が呼ぶよりも早く銀時は黒蟻の攻撃を避け、重い拳を彼の頬に叩き込んだ。かなりの衝撃だったらしく黒蟻は吹っ飛んだ。
「……燕、お前がこんな馬鹿共の命を背負う必要は無え」
「!」
「お前と初めて会った時から、お前が松陽のガキなんじゃねーのかとずっと考えてた。本当に、色々考えた。もしお前が松陽のガキだったらお前に撃たれても俺ァ何も文句言えねーって…殺されても仕方ねーって、ずっと思ってた」
 「けど…」銀時は俯く。
「すげー勝手な言い分だけど、お前にゃやっぱり向いてねーわ」
「……は?」
「お前の手は造ったり直したりする手であって、俺たちみたいに奪ったり壊したりする手じゃねーってことだよ」
「!」
「そんでもって…相手がどんな奴であれ、お前に人殺しはさせたくない。先生は…お前の親父は人殺しを嫌ってたから」
 そう述べる銀時の目はあまりにも哀しげで。燕は彼に対して憎しみなど抱くこともできず、ましてや先のように誰かに銃口を向けることなどできる筈がなかった。彼の心象が本当か否かはどうであれ、燕の殺意は段々と沈静化していった。
「…フン、ちょっとした余興になるかと思ったが…つまらん」
 が、黒蟻の一言で事態は引き戻される。黒蟻は頬を拭ってパチンと指を鳴らすと、多数の気配が燕たちの周囲を囲みだした。
「貴様らを殺しておけばお前を正式な罪で裁けたというのに…」
「やっぱりお前、テキトーに罪を燕になすりつけて殺すつもりだったんだな」
「まあな。井久間や貴様を殺せばわざわざ取り繕う必要など無かったのだが仕方あるまい」
「随分余裕綽々な態度だねえ。そんなに自信あるか?」
 斉藤が自らの着物の一部を破って燕の右腕を止血している状況を見ながら、銀時は述べる。今自分たちが置かれている立場は圧倒的不利なのに、何故彼はこんなにも冷静なのだろうと燕は不思議に思う。「黒蟻とやら」とここで桂が言う。
「自分の思い通りにいくと思ったら大間違いだ」
「……なに?」
「ふん、貴様は所詮地に這いつくばる蟻。聡明に先を見据える者に敵いはしない」
「――そうアル!お前みたいな中間管理職が出しゃばんじゃねーアル!」
「見てる人はちゃんと見てるんです!」
 突如バン!と荒々しく開かれるドア。そこには神楽と新八が凛々しく立っていた。そして中央、逆光で顔が見えないが背丈からして男が室内に入って来る。
「刀を収めよ、無礼である」
「……――…な、に…」
 燕たちを囲っていた者たちは彼を認めるや、次々と得物を収めて頭を垂れる。想定外の人物の登場に、銀時と桂以外の者全員が呆気にとられる。

「予は徳川茂茂であるぞ」

 そう、そこには現将軍・徳川茂茂が居た。
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