自分がしたことには責任を持て


「そう、松陽の首を斬ったのはそこに居る白夜叉だ」
 予想外の告白に燕だけでなく斉藤も茫然と銀時を見た。
「……え…でも……万事屋さんは…」
「白夜叉は仲間を取るか師を取るか迫られ、結果的に師を殺し、自分たちはのうのうと生き延びたのだ」
「っ違う!!銀時はそんな簡単に…」
「ヅラ」
 構わないと、銀時の目が言っていた。そしてそれが本当のことだとも語られている。彼は真っ直ぐと燕を見据えている。その瞳の強さに燕が逸らしたくなった。
「燕、そいつの言う通りだ」
「…!!」
「俺も松陽の仇だ。撃ちたきゃ撃て」
「………で、でも…っ」
「どうした吉田、撃て。井久間は撃てても白夜叉は撃てぬと?」
 追い打ちをかけるような黒蟻の発言に、燕は迷いが生じる。母は無論、父を殺した相手も憎かった。しかし首を斬った相手は自分がかぶき町に来てからずっと良くしてもらっていた者で、とても撃てる筈がなかった。今になって決意が揺らぐ。一体どうすれば良いのか…。
 その瞬間、誰もが銀時と燕の行動に注目していた。渦中に居る二人も互いのことだけに意識が行っていた。

 ―――誰も、井久間の動向など気にも留めていなかった。

「あああぁあぁぁああ!!!」
「っ!?」
 突然の咆哮。振り返った瞬間、燕の右腕に熱い感覚が駆け巡る。あまりの衝撃的な感覚に後ろに倒れ、その際に銃が手許から離れてしまった。同時に剣戟の音が至近で響き渡る。刹那には井久間の叫び声が辺りを支配した。
「…?」
 瞑っていた目を開けると、柄物の着物が飛び込んでくる。斉藤が庇ってくれたのだと気づき、それから頭を動かして井久間を見てみると彼は出血した肩を押さえながら息を荒立てていた。それを見ていたところ、急にグンと襟元を引っ張られ無理矢理立たされる。ヒュッと息が詰まった。「燕!!」銀時の声に振り返ろうとすれば体を拘束されて首元には刀身が添えられた。「動くなよ」耳元で黒蟻の声がする。
「意味わかんねーことしてんじゃねーよ。お前どうせ燕のこと殺すつもりなんだろ」
 銀時の言葉に黒蟻はくつくつと笑う。
「吉田、こうしよう」
「…?」
「白夜叉を殺せ。さすればそこの者たちは見逃してやろう。井久間もお前の好きにして良い」
 呼吸が止まる。この男は今、何と言った?
「悪い条件ではなかろう。お前は白夜叉を殺せば井久間を好きにできる。白夜叉はどうせ松陽の仇だし、更にはそこの二人を見逃してやると言っているのだぞ?結果的に貴様が俺に殺されようとも貴様は悲願を達成できるのだ」
「まっ待て!何故私が…」
「煩いぞ貴様」
 黒蟻は喚く井久間に小太刀を投げる。それは井久間の足に刺さり、彼は自由を失った。
 さあ、とばかりに黒蟻は燕の右手に銃を持たせ、その右手ごと覆うようにして黒蟻も銃を握った。燕はそれを振り払おうとしたが先程の右腕の負傷により力が出ない。その上黒蟻は添えていた刀身の鋒を、燕の首に少しだけ食い込ませていたので燕自身下手な動きができなかった。チラと銀時に視線を向けると、彼はいつもとは違う生きた目でこちらを見据えていた。真剣味を帯びたその目に燕の背中がゾクリと粟立つ。
「撃て。殺す者が一人増えただけだろう、恐れることは無い」
「……っ…」
「それともなにか、このまま復讐できずに死んでゆくか?」
 復讐――それは黒蟻の言う通り悲願だった。それの為だけに今まで生きてきた。苦労してきた。そしてその復讐の相手は憎き井久間と、偶然仕事先で出会った銀時。
 いつもちゃらんぽらんな彼が、父の首を斬った。それは事実。だけど彼が阿呆で馬鹿で、お調子者で、冷たい自分に対し優しくしてくれた、気にかけてくれていた人だというのもまた事実。そして偶然出会ったただの技師一人の為に危険を冒してくれたのも、事実。
「……き、…ない…」
「…あ?」
「……できない…っ!!」
 できるわけがない。彼は業を受け入れていた、撃ちたきゃ撃てと言っていた。その声と目と表情で分かる。望んで殺したのではないということを。自ら進んでつらい選択をしたのだと。何もしなかった自分がどうして彼を殺すことができるだろう。
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