愛すべきダチ公


 某日、万事屋は変わらないだらけ切った雰囲気を醸し出しながら午後を満喫していた。仕事の依頼も無く、やることもないので銀時は寝転びながらジャンプを読み、神楽はテレビ鑑賞、新八は掃除と各々したいことをしていた。
そんな折、万事屋のインターホンが鳴り響いた。皆、顔を見合わせる。暫しの沈黙に耐えかね、新八が掃除用具を置いて玄関に向かった。
「はいはーい……あっ燕さん!」
「どーも、お久しぶりです」
 あの黒蟻の一件以来の燕に銀時は跳ね起き、玄関まで迎えに行った。
「お久しぶりです万事屋さん」
「おー。ま、上がれよ」
「はい」
「燕ー!久しぶりアルなー!」
 居間に通し、ソファに座らせると燕は机に白い紙袋を置いた。「お礼にしては安いですけど、あっしのせめてもの気持ちです」中身は豪華なホールケーキだった。
「きゃっほー!!食べて良いアルかこれ!」
「勿論です」
「お前、傷は平気なのか」
「斎藤さんと同じこと訊きますねェ。大事には至ってませんよ。皆大袈裟なんです」
「ンなこたねーよ」
 今にも手で食べそうな神楽を押えつけながら、銀時は話す。そこに新八が包丁とお皿を持ってきて漸く神楽は落ち着いた。
「私大きく切ってヨ」
「何言ってんだ、銀さんが一番デケーに決まってんだろ」
「何でアルか!あの事件は私が一番働いたネ!」
「お前将軍呼んできただけだろーが!」
「ほら二人共落ち着いて。平等に食べましょうね」
「…新八さん、お母さんみたいですね」
「お母さんといえば燕殿のお母上は品があって実に良い人であったな」
「「「……ん?」」」
 もう一人の男の声に全員が動きを止める。「俺のことは気にせずケーキを配分してくれ」と言いながら燕の横でんまい棒を頬張る桂。
 ドゴッ!と大きな音を立てて桂がソファにめりこむ。銀時が速攻で彼に拳骨を繰り出したからだ。
「………あの、大丈夫ですか?」
「燕、気にするな。こいつはソファにめりこみたいっつー願念があるんだ」
「どんな願念!?」
 早々に復活して自然な手つきでケーキの乗った皿を取る桂に、銀時は追撃を仕掛ける。二人の攻防戦を見ているしかない燕に新八は「気にしないでください」と言ってお茶を出した。「そうアル、あのアホ二人に構ってられないネ。おいしおいし」「神楽ちゃん結局手で食べてるううう!僕の分残しておいてよ!」「食卓は戦場アル。情けは無用ネ」子供二人の会話に銀時はすかさず反応する。もしかして自分の分はとっくに神楽の腹の中では…?
「……っふ」
「!」
「あ、済みません」
 それまで静観していた燕の微かな笑い声に、銀時は素直に驚いた。あの無表情を極めていた娘が笑うところなど貴重でしかない。
「…、新八ィ、神楽連れてお前ん家行ってろ」
「えーっ!?何でアルか!私もっと燕とお喋りしたいネ!」
「うるせーな。………大人には積もる話があるんだよ」
「神楽さん、また遊びに来ますんで」
「本当アルか!?何も言わずにどっか行っちゃわないアルか!」
 神楽の言葉に燕だけでなく銀時や新八も驚いた。
「、大丈夫ですよ」
「…神楽ちゃん、行こう」
「分かったアル……」
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