愛すべきダチ公


 二人が出て行ってから居間は少しばかり重苦しい空気が流れた。「あれから大丈夫なのか」静かに、銀時が口を開く。
「あ、ハイ」
「にしてもお前と高杉が知り合いだったとはな」
「知り合いというか…あっしにとってはお客さんに近いですけど。桂さんは高杉さんの頼みであっしを助けに来てくださったんですよね、ご迷惑をおかけしました」
 燕の言葉に桂は首を振る。
「何、大したことではない。それに先生のご息女とあれば助けに行くのは当然だ」
「…、」
「…本当に済まなかった、燕殿。先生を救えなくて。それに加えお主のお母上まで」
「やめてください、そんな…」
「いや、俺たちはあの日、お主のお母上に必ず先生を助け出すと宣言しに赴いたのだ。…しかし結局助け出せなかった…その上お主は真実を知らずに今まで生きてきた」
 確かに松陽の首を斬ったのが銀時だなんて燕にとっては論外だった。
「…聞いてくれるか、俺たちの話を」
 桂の問いに、燕は迷うことなく頷いた。
 それから燕は黙って彼らの話を聞いた。松陽が拘束されたこと、塾生の誓い、攘夷戦争、処刑―――全てを聞いた。彼らがどれだけ過酷な青年時代を送ったか、燕には推し量れなかった。多分、自分などでは想像もできぬのだろう。
「…お二方、父の為にありがとうございます」
「お前ほんと頭下げんの好きだな。上げろよ、礼言われる資格なんざねーよ」
 銀時の声は思いの外冷たいものだった。それは自分に対する後ろめたさ、負い目があるからだと燕は知る。
「……父は立派な人だったんですね」
「ああ。本当に立派な人だった」
「拳骨かなり痛かった…」
 拗ねたように言う銀時に、燕はまたクスリと笑ってしまう。たった一つだけ憶えている松陽との記憶。その中で彼が言っていた鬼の子とは、幼い頃の銀時ではないのかと燕はなんとなく思った。
 「お前笑うと意外と可愛いな」そんな中、銀時はふとそんなことを口にする。
「…セクハラはやめてくれませんかねェ」
「銀時、貴様年下好きだったのか」
「ちげーよ!!あー、ほらお前、いっつも無表情で愛想無かっただろ?それ勿体無いなって」
「…?」
「今まで人に冷たくしてたのは復讐に巻き込みたくなかったからだろ?だったらもう復讐しねーんだし、もうちょっと愛想良くしても良いんじゃね?それにお前、お妙と知り合いなんだろ。これを機にあいつンち遊びに行ってみろよ」
 中々来ねーっつって寂しがってたぜ、と銀時は言う。そういえば彼女とはあの買い物の一件以来会っていない。どうせ自分は居なくなるのだからそんな必要などないと燕が一線引いていたのが原因でもあった。そう、勝手に線を引いて銀時たちと自分は違うのだと悲観していたのだ。「……そうですねェ」もう一度、笑う。自嘲の意味を込めて。石を投げられていた子供時代とは違う。松陽の実子だからと排斥されてきたあの頃とは違う。自分は独りじゃなかった。
「……あの…万事屋さん、桂さん」
「ん?」
「何だ」
「私の知らない…父のこと……塾であの人がどんな風に生きていたか、教えてくれませんか」
 燕のお願いに銀時と桂は顔を見合わせ、燕に微笑みかける。
「「勿論だ」」
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