村塾組と飲み会


 ――数時間後。
 ガタン!と音を立てて机に落ちる頭。
「いやお前強すぎだろォォォォォォ!?」
 頭の色は黒。そう、高杉である。銀時のつっこみに頭痛がするのかぷるぷると震える高杉を一瞥し、燕はグラスを傾ける。
「あっしの勝ちですねェ。約束ですので一つ、言うこときいてもらいやす」
「こえーよなんなのこの子あり得ねーよ見た目ひ弱そうなのに」
「燕殿……ギャップ強すぎ」
 平生を保つ彼女の周りには数えきれないくらいの空いた酒瓶。しかも更に酒を煽るあたり、まだまだ余裕らしい。その飲みっぷりに銀時と桂はもうお腹いっぱいである。
「……ぅぅー…」
「高杉さん?大丈夫ですかィ」
 なんとか起き上がるが彼の顔は真っ赤だ。でろんでろんに酔っている。彼は酔った瞳で燕を見る。すると手を伸ばし、
「燕〜…」
 燕に抱きついた。
「何してんだテメェはァァァァァァァァァァァ!!」
 反射的に銀時は机から身を乗り出したが、燕がそれを手で制す。
「どうしたんですかィ高杉さん。人肌恋しいんですかィ」
「…んー…」
 燕が頭を撫でるとそれに乗じて高杉は彼女を更にぎゅうぎゅう抱きしめる。銀時は己のこめかみがピクピク動くのを感じた。
「ちょ、何なのこいつムカつくんだけどすっげーイライラするんだけど」
「しかし高杉が酔うところなど初めて見たな。あいつは俺たちの仲で一番酒に強かったから」
 そう言って桂は携帯電話で燕に抱きついている高杉を撮る。燕にべったりな高杉に苛立っていたので止めなかった。そんな折、銀時はふとあることに気づく。
「……そういえばよォ、燕ってさ、俺だけ“万事屋さん”呼びだよな」
 先程から高杉さん高杉さん連呼していたため気づいたのだ。己だけ名前…否、苗字ですら呼んでもらえてないと。
「ああそんなこと」
「そんなことじゃねーよ!俺結構気にしてたんだからね!?ヅラとバカ杉に負けた気分だったんだからね?」
「フハハハ銀時!貴様もまだまだということだ!」
「分かった取り敢えずお前は黙っててくんない」
 ニヤつく桂を一睨みし、銀時は燕に向き直る。
「ねーねー燕ちゃん。俺のこと名前で呼んでみてくんない?」
「坂田さん」
「そこは空気読めよォォ!銀さんハァトだろ!?」
「時さんハァト」
「まさかのそっちィ!?」
「…………燕、燕」
 銀時を煩わしそうに一瞥したのち、高杉が燕の腰を抱き寄せる。体勢を崩され燕は高杉の胸元に手を添える。
「俺のことも名前で呼んでみろ」
「「え」」
 これには流石の燕も恥ずかしそうに視線を彷徨わせた。が、高杉はそれを許さんとばかりにぐっと距離を近づける。
「ん」
「……し、晋助さん」
「……」
「……」
「…晋さまって呼んでみろ」
「……晋、さま…」
 すると高杉は立ち上がると燕の腕を引っ張り己に倣わせる。
 そして一言。
「布団借りる」
「ふざけんなァァ!!」
 もう耐えきれず銀時は高杉に向かって飛び蹴りをかます。避ける余裕がなかったのか高杉はそれをまともに食らい、畳に転がった。
「オメーマジでいい加減にしろ!ホントに高杉か?え!?酔ってキャラ崩壊してるぞ!?」
「うるせえ喚くな!あんな呼び方されたら抱く以外にするべきことがあるかよ!!」
「オメーが呼ばせたんだろ!?」
「大体あいついい匂いするしあんな状況じゃ仕方ねーよ!」
「え!?燕いい匂いすんの?」
「前からずっと思ってたんだがなんかいい匂いする。柔軟剤かと思ったが違うみてえだし、気になってた」
「………すいやせん、本人の前でそういうこと言わないでくれやすか」
 普段無表情な燕もこればかりは顔を赤くした。可愛いな。と銀時は場違いだが思う。
 「あ、そういえば」ここで桂がポンと柏手を打つ。
「いい匂いだと感じる異性は遺伝子的に相性が良いらしいぞ」
「遺伝子的…ってつまりどういうことだよ」
「つまりセ○クスの相性が良いというわけだ」
 静まり返る場。
「燕、やっぱり今夜俺と」
「させるかァァァァ!!」
「い゛っ…邪魔すんじゃねえよ銀時!」
「全力で邪魔しますー!燕と寝るなんざ百年はえーよバカヤロー!!」
「うるせえ名前で呼ばれてもねー奴が!」
「それを言うなァァァァ!!」
 ぎゃあぎゃあ騒いで喧嘩する銀時と高杉。それを少し引いて静観する燕と桂。
「……燕殿、俺はまだあまり飲んでいないのだ。一杯付き合ってくれぬか?」
「喜んで」
 結局今夜燕を手に入れたのは桂であった。
「そういえば言うことを一つきいてもらう約束、どうするつもりなのだ?」
「あー…今日言ってもきっと忘れてますでしょうし、後日改めて言います」
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