仕事とプライベートは線引きしろ


 ほ、と一息つく燕。しかし彼女の周りには銃やら刀やらが配置されていて、どう見ても憩いの場から程遠い。(何であっし、こんなところに居るんでしょう)思わず自問してしまうが、自答はできなかった。
 原因は全て、高杉だった。今朝突然からくり堂にやって来たかと思えば「来い」と拒否権無く言われ、そのまま明らかにヤバそうな船に乗せられ機器類を修理させられる始末。気づけば昼は回っていて、こちらで出された賄い料理をいただいていた。しかも腹が立つことにこのお料理が予想外に美味しすぎる。結局完食してしまい、食後のお茶をゆっくり飲んでしまったのである。
「満足そうだな」
 突然がらりと開かれた襖から、高杉がゆっくりと入ってくる。彼は目の前に座ると愉快そうに口角をあげて燕を見る。
「誘拐紛いなことして楽しいですか」
「なにが誘拐だ。立派な出張だろうが」
「いや誰がどう見てもあれは誘拐ですよ」
「ククク、まあそれは置いといてだ」
 ポン、と投げられた封筒。重みからして前回と同じ額が入っているのだろう。
「あの…こんなに受け取れないんですが」
「気にすんな。こんくらい働いただろーが」
「あなたにはそう見えるんですか」
「ああ」
 賄い料理まで出していてどの口が言うか。それに機器類もあまり壊れていなかったし、メンテナンスが殆どであった。そんなに大変なことはしていない。単に金銭感覚が違うだけなのだろうか。燕は腑に落ちない気分だったがお金は好きなので素直に受け取った。
 時刻はおやつ時を迎えている。源外には何も言わずにここへ来てしまったので心配しているだろう。そろそろ帰ると高杉に告げ、燕は早々に下船した。源外に怒られるのは嫌なので早めに帰還しようと燕は近道に裏筋を通る。今日が晴天にも関わらず裏筋に光は差さず、暗い道が遠くまで続いていた。そんな中、急にポンと肩に手を置かれた。
「失礼。攫わせていただく」
「は、」
 それは一瞬の出来事で。男の声が耳許でしたと思えば、直後、うなじに痛み。手刀を食らわされたと気づくことすらできず、燕は意識を手放した。
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