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「…えっ」
「えっ?………嘘?!」
一拍遅れて、顧問の言葉を理解した誰かの叫びが音楽室に響き渡る。つまり、その。
「えー、と。この、今日出席した部員だけで、吹奏楽をやるってこと…?」
「っていうか実質、そこの3人だけになるかもしれません」
「いや3人じゃ無理じゃん?!!」
さて、雷門中学校吹奏楽部とは。
部員数は計37人。なお、うち何人かは幽霊部員。3年生は春先の定期演奏会にて引退済みの為、現在は1年生と2年生のみで活動している。
校内や地域行事での演奏、及び夏のコンクールへの出場と、年1回の定期演奏会の開催が主な活動内容の、至って普通の吹奏楽部。
そんな吹奏楽部は今、過半数の部員が出席できないというまさかの状況に陥ったことを顧問から知らされました。しかも。
――2週間と5日後に本番を控えているという、とんでもないタイミングで。
「訳が…わからない…」
「普通に無理よね…?」
「あっは〜サッカー部すっごい、見てアレ。めっちゃ光ってる」
上から順にトランペットの豪炎寺千歳、パーカッションの羽柴柚とサックスの僕、みょうじなまえ。全員2年。
千歳はこの前転校してきたサッカー部の豪炎寺くんの双子の妹。当初別々の中学にいた関係なのか、兄妹仲は微妙な感じ。
柚は2年生ながらに部長を務めている。なお我が部で唯一、他校に彼氏のいる女子生徒である。今は目が死んでるけど、普段は穏やかな性格。
そして僕、みょうじなまえ。一人称が僕であることはどうか大目に見て欲しい。幼馴染が男の子ばかりだったもので、混ざってたらこうなってた。そのうち卒業するつもりはあるから許して。ついでに、今、窓から件の幼馴染達のいるサッカー部を見て、現実逃避している最中なのも許して。
…真面目に考えろって?いや、ちょっとくらいは許して欲しい。だって余りにも無理すぎる。例えばこれが学内行事や定期演奏会なら、出演取り止めなり開催日をずらすなりで融通も効いた。しかし。
今回控えるは、毎年参加している地域行事ーーしかも部費に関わる活動功績、地域への認知度アップ、新部員獲得の伏線等など、様々な面で重要な行事だ。…そして最も重要なポイントとして。
なんとこの行事、途中辞退が許されない、お固めの参加形式なのだ。もし辞退した場合、来年以降は頑として受付けて頂けない仕様なのである。
だからちょこっとね、まずい。もし今年の参加を辞退して、来年以降コレが立ち消えると…ちょっと…うん、嘘!物凄くまずいんだなー!
「無理…ホント無理…演目提出の締切日翌日にコレって…曲目変更出来ない…無理…むり…」
「えってかなんでこうなった?千歳、先生なんて?」
「1年に多人数版2人3脚のテレビ出演依頼がきて、何人か巻き込まれて合宿の旅。残ったうち何人かは、英語科で決まった短期交換留学に選ばれたみたいで……あと」
「あと?」
「最近、季節外れ過ぎって話題になってるインフル。…ちなみにいない2年もコレ……心当たりあるでしょ」
「…めっっっっちゃある」
そういや数日前、すっごい具合悪そうだったもんね……チューバとトロンボーンの部員が2人。死にそうな顔しながら、でも金管合奏には全力フルスイングばりに参加してた。もしあの子達がインフル潜伏期、発熱前だったとしたら…飛沫感染で蔓延するわ。どーりで今日生き残ってるメンバーが打楽器と木管ばっかな訳だわ。金管の生き残り、あの日合奏前に早退してた千歳だけってことか。
で、生き残って今日来たのが8人。
うち1人は本番当日が法事で岡山行き、うち2人は同じ行事の別演目に参加する兼ね合いで不参加決定済み。
更に残る2人は、体調不良でついさっき早退した。金管に蔓延したインフルが影響している可能性大とのこと。
健康体かつ参加可能な状態で残ったのが、ここにいる僕ら3人。トランペット1本、打楽器1本、サックス1本。1クラス分以上も部員がいてこうなるって、ある意味とんでもない奇跡ではなかろうか。
「いや、ホントに、どうやって3人で吹奏楽…?パート的に軽音楽とかアンサンブルにも編成できなくない?地獄では?」
「地獄だわ。奇跡が産んだ地獄」
「………こうなったら…仕方ないよね」
先程から無理しか口走らなくなっていた柚が遂に別の言葉を発した。完全に目が据わっている。そして、先程の顧問に負けず劣らずの爆弾発言。
「運動部から引き抜きしよう」
響け僕らの!
(助けを求めるプロローグ)
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