ご無事でしょうか

拝啓、可愛い妹のメルクリアに、お世話になっているコーキスと、きっと入れ違いで帰ってきていたような気がする貴方へ。

私は今、おんぼろ神社と思しき建築物の陰で、なんと!文字通りの空中浮遊と洒落こんでいます。

ただし謎の吸引力が作用しているみたいなので、気を抜くと参道っぽい場所というか、そこにいる禍々しいカミサマのおわす方向に飛んでいきそうだ。早速浮いた体が吸われそうになって、手近な木の幹に全力で抱き着いておいた。明日にも筋肉痛になりそう。



ふわりふわりと体の感覚に現実味が無い辺り、所謂、魂だけの状態でカミサマにお呼ばれしたのだと思われる。体だけ元の場所に残ってるんだろうけど、一緒にいたメルクリア達は大丈夫だっただろうか。少なくとも此処にはいないから大丈夫だと思いたい。

――ところで目の前の二人とも、わかりやすくやっちゃった感のある顔でこちらを見るのはやめて。笑っちゃう。手が滑って木から離れちゃう。


「もしかしなくても俺とコーキスの繋がりを通じて…ですよね…!?」
「まあ、うっかり目印つけられまして…二人にはご面倒をおかけしますが、あの、助けて頂けないでしょうか」


腕が早々に限界で…と、ふよふよしながら訴えてみた所、ミリーナが慌てて体を引っ張ってくれた。
彼女の腰元の鏡がきらきらして、吸引力が大分弱まった感じがする。というか別方向に紐で繋がれたような、鏡の方からも引っ張られて相殺しているような。図としてはこう、紐で繋がった風船のように宙に浮いてる感じ。


「私の鏡と結んでおいたから、これで暫くは大丈夫。なまえさんの腕の目印はついたままだし、解決はしてないけれど…」
「ありがとう〜!全然マシだよ、助かる…」
「俺のせいで本当にすみません…絶対どうにかするので、ひとまず状況を説明します」


いち。最初はただのお祓いの予定。なのにいざ来たら神社だったし、気づいた時には閉じ込められていた。

に。カミサマがいた。美味しそうな血筋のイクスが居て、死にかけの状態から起きちゃったらしい。

さん。コーキスと連絡した時、カミサマがメルクリアの気配も察知。私が代わりに魂だけ連れてこられて、今に至る。
…うーん、皆揃って運が悪いとしか言い様がないような!


「カーリャが出口を見つけてくれれば脱出できるけど…見つからなかったら一か八かで浄められるか試さないといけないわね」
「一か八かなくらいやばい感じなの…?」
「多少は戦えるんですが…曲がりなりにも神格相手だと、他の手が今は無いんです。精霊装を剥がされた時点で俺の命が終わる可能性が…」
「それはめっちゃやばいのでは?」
「大丈夫よ、二人とも私が守るわ。皆でちゃんと帰りましょう!」
「み、ミリーナさま〜!お待たせしました〜!」
「カーリャ!」


噂をすればというやつか、カーリャちゃんが戻ってきた。めちゃくちゃに飛び回ってくれていたらしく若干へろへろだが、出口に出来そうな綻びは見つかったらしい。ただし。


「穴がちょっと小さくて、無理やり広げないと通れないかもですぅ…」
「…とりあえず行ってみよう。外と連絡くらいは取れるかもしれない」
「なまえさん、動くのにちょっと引っ張るわね。何かあったらすぐに声をかけてね」
「御手数お掛けします…」


本物の風船さながらに引っ張ってもらってぷかぷか移動する私、お荷物過ぎて申し訳ない。帰ったらめちゃくちゃお礼をしよう。