忘れてる物がある

参道の中央を陣取る神様に見つからないよう、ミリーナの術で隠形しながらこっそり移動する。私は浮いてるので引っ張ってもらっているというのが正しいのですが。

あの神様は死にかけ…というかほぼ死んでる状態なので、あからさまに動いてはいない。
けれどイクスやおまけの私を諸共に黄泉路へ引っ張りこもうとしている気配は伝わってくるし、現状は正確に認識されていないだけであって、はっきり見つかった瞬間めちゃくちゃ動き出してもおかしくはないらしい。普通に怖い。遺言とか考えておいた方がいいかもしれない。

ぐるりと敷地を半周したくらいの場所に着くと、カーリャちゃんがこっちですと枯れ木の傍でくるくる回った。私にはわからないけど、ここに外と繋がる穴っぽいのがあるらしい。


「確かにちょっと小さいなぁ。とりあえず――コーキス!聞こえるか!」


木に手をついたイクスがコーキスに呼びかける。どういう仕組みかわからないが、思念の声もちゃんと聞こえるようだ。

「マスター!無事だったんだな、良かった…!今どうなってるんだ?」
「心配かけてごめんな。結界に閉じ込められてるんだけど、綻びを広げて通れないか試してみる」
「わかった。ボスもさっき帰ってきたんだけど、今そっちに向かってると思う。あと、なまえ様は…?」
「一緒にいるよ。魂だけで浮いてしまっていたから、今はミリーナが繋いでくれてる」
「良かったー!突然消えたからホントに心配で…ん?魂?…魂だけ…?身体は?」
「え、身体?」
「ン???」


今なんか聞き捨てならない言葉が聞こえたような。
あの、私の身体ってそっちに残ってないので?ここには魂だけで引っ張られてきてたんじゃないので…?
聞いていたミリーナがハッとした顔をする。何事か囁かれたカーリャちゃんがぴゅんと飛び去る中、イクスの顔色が悪い。まずいことこの上ないみたいな顔してて笑う。笑ってる場合ではなさそうだけれども!


「あの時、輪郭ごとぼやけてたから、むしろ俺たちからは身体ごと引っ張られてたように見えたような…」
「…わァ!どうしよう?」
「と、とりあえず連絡…うわっメルクリア、やめろって!今俺に触ったらお前まで目付けられるかもしれないからダメだって言われたろ!!ちょ、とにかくボスに連絡してみる!!」
「お願いしますぅ…」


コーキスの声が聞こえなくなって数秒、神妙な雰囲気になってしまった。
まず間違いなく私の身体を探しに行ってくれているであろうカーリャちゃんを拝みつつ、またしてもとんでもない顔で謝罪botと化してしまいそうな二人を宥めた。


「まあ、その、とりあえず帰り道確保しよっか!どっかの木陰とかならバレずに回収できる…よね?」
「ウ、そう…ですね…あの本当にすみません、必ず見つけますから…!」
「まだまだ未熟ね、私たち…」
「ほんとに気にしないで!私も自分の身体無いの気づかなかったし!」


あ、今すごいお化けみたいな発言しちゃった気がする。

いやでも自分の身体どっかに落としたのに気づいてないの、私ちょっと感覚が鈍すぎにも程がない?
知ってたけど、本当に一ミリたりとも、こう、なんというか、特殊な才能がないのはわかる。でも見えるだけ偉いと褒めて欲しい。二人が作業をしているのを見守りつつ、ぷかぷかと空中で丸くなる。お荷物極まりなくて私の方こそ申し訳ないなあ、なんて。
少しだけため息をついた時、ほんの僅かに空気が揺れた。あれ、もしかして。


「み、み、ミリーナ様ー!」
「カーリャ!もう見つかったの?」
「それがその、見つかったというかぁ…」


口篭るカーリャちゃんの後ろから、遅れて聞こえる誰かの足音。
あっと思う間もなく、その声の主の姿が現れて。


「…全く。何故こうも手がかかるのだ、お前達は」


私の身体を抱き抱えながら、大きなため息をつく彼――ナーザ。
とんでもなく呆れたような疲れたような、少し怒っているような…そんな雰囲気の声を聞きながら、とりあえずごめんなさいと頭を下げておくのでした。