ちょっと未来の雪の日の話:

    ・友情(?)出演ゼロスくん
    雪の日でしんどいゼロスくん、女性に声を掛けるも皆捕まらない上妓楼も臨時休業していた夜



    「ハァイ、」

    名前を呼ばれて振り返ると、綺麗な赤色の影。ゼロスさんだ。ふむ、少しお酒が入っている匂いがするけど、正気を保ってらっしゃるので人は呼ばなくて良さそうだ。

    「おかえりなさーい、おつかれさまでっす」
    「たっだいま〜っと、やっぱ可愛い女のコにお迎えしてもらうと元気出るわ〜!」
    「可愛い…ですと…お世辞でも嬉しいので、私なんかで良ければ喜んでお迎えしまーす!」
    「ひゃーーありがと〜!も、是非!是非お願いするわ!」
    「あ、でもゼロスさん基本朝帰り組じゃないですか?今日はなんか早いですね?」
    「あ〜…いやぁ、ちょっとなぁ…」

    だはーとため息をつく姿に、なんとなくいつもと少し違いを感じて首を傾げる。どうしたゼロスさん。なんかこう…何時もより、気だるそうというか、なんというか…?あれ、もしや体調悪いとか?!
    ちょっと失礼しますと近寄り、額に手をあてさせて頂…地味に身長差がキツいわコレ。でも熱とかなさそうでよかったよかった。…じゃどうしたんだこの方?

    「こらこら。女の子がこんな時間に、男に不用意に近づくんじゃありませんー」
    「今更過ぎないですかそれー」
    「ま、そのとーりなんだけどね!」
    「で、どうされたんですか?…フラれたとか?」
    「俺様のよ〜な色男がフラれるわけないでしょぉが…と言いたいトコだが、まあ当たらずも遠からず、ってカンジ?」
    「え、マジです?こんな完璧にカッコイイ上超イケメンな男を袖にするよーな人いたんですか?!ティル・ナ・ノーグやば…」
    「待って、こんな素直に褒められたの久々過ぎて俺様マジで惚れちゃいそう」

    アイツにぶっ殺されそうだけどと天を仰ぐ姿に、いやだって本当のことですしと補足する。…ああでも本人に思われたかったですよね、すみません。まあとりあえず、私ごときで申し訳ございませんけれども。

    「んー…たまには夜更かしもいいですよね。私でよければお付き合いでもしましょうか。ホラ、一人よりも二人、人に話す方が楽、などと申します!」
    「…もしかして俺様を慰めようと…?」
    「僭越ながら、もしかしなくてもそうですよ〜。さて、何か飲みますか?」
    「やばい…ほんとに泣きそう…優しさが身に染みすぎる…」

    ちなみに、ここまで声を潜めて食堂への道程を歩いて来た次第で。では入ろうとした瞬間、ふとゼロスさんの雰囲気が変わった。
    するりと腰に伸ばされた腕に引き寄せられて、体温が分かる程度に密着する。んん?!ちょっと待って近くない?!

    「あんね、コレは優しさにつけこもうとする、酔っぱらいの戯言だと思ってくれて構わないんだけどな」
    「は、はい。聞きますので距離が少々…あの…恥ずかしいと申しますか…」
    「近いのイヤじゃない?気持ち悪くは?」
    「はっ?いやそんなことは全くないですけど…!」
    「…ほお、じゃあね…飲み明かすのもモチロン嬉しいけど、一晩慰めてくれるって言うなら」
    寂しいから、ゆっくり抱かせて欲しい。

    意味わかる?や、ちょっとあけすけすぎた?と苦笑いするゼロスさん。いつの間にやら壁際に追いやられて、腰元が特に密着している。回された片腕は外されないまま、もう片方の腕に頬を撫でられた。ゼロスさんのお顔が近い。瞳めっちゃ青い。はじめてこんな近くで見たかも。す、と回されていた手が軽く背中を滑って、思わず喉の奥から声が出そうになった。
    赤色の髪の毛が顔の周りにかかって、周りの様子がよく見えない。ただ、青い瞳の奥に、ゆらと何かが揺れていて、それと、私に何を求めているのかも、それだけなんとなく理解できた。

    「えーっと、ほんとに寂しいんですか」
    「ん、とーっても。寒いし、冷たいし」
    「ん、んー…こ、こういったお誘い…お誘いですか?を、されるのは…初めてでして…はい」
    「ってことはしょじ…ンンッ!え、マジで?」
    「マジですマジです、私の世界じゃそもそも若い子のそーゆーのは良い目で見られませんでしたし、私自身お付き合いの経験も毛が生えた程度で」
    「…じゃ、ダメ?」
    「んー…ゼロスさん、私を大切にしてくれます?…なーんて、別にしてくれなくてもいいんですけども」
    「…?」

    恥ずかしさしかないので、平気かと言われると嘘になる。ただ、その、初めてだのなんだのには、はっきり言って今の私には頓着がない。

    ――役に立てないのなら、きっと死ぬだけだ。

    微かに胸の奥で、誰かが何事か囁いている。何を言っているのかわからないけれど、でも、私に許された価値があるのなら、どうぞ。その人の気に障らないのであれば。思ってたのと違ったって思われたら、きっとその時死ぬだけだ、たぶん。
    だからいいですよと、笑って返した。


    「…こりゃ…ちょーっと見ないうちに、まずいことになってんなぁ」
    「ゼロスさん?」
    「いんや、こっちの話!とゆうかホントにいいの?」
    「はい、お好きにどーぞ」
    「じゃ、…お手をどうぞ、レディ?」

    傷の舐め合いと洒落こみますか、身を離す代わりに伸ばされた手。別に私は傷ついてないからなんか違うけどなぁと苦笑しながら、その手を…取れなかった。

    カツンと響いた足音。

    「バカ神子、何してんの」
    「……………時間切れかぁ」
    「シンク、おかえりなさーい」
    「何してんのって聞いてるんだけど」

    挨拶ガン無視されてそこそこ悲しい。けど、一瞥されたあたり存在自体は無視されてなかったので良しとする。
    近寄ってきたシンクの足が、予告無くゼロスさんの眼前を通り過ぎた。

    「…ってあぶなぁ?!シンくん何するわけ?!」
    「それはこっちのセリフなんだけど?節操ないのも程々にしろ」

    シンクの雰囲気がめっちゃくちゃ鋭い。も、やばいくらいイラついてるのが丸わかりである。えっやばくない?マジギレ一歩手前なレベルな感じしてない?

    「だってまさかオッケー貰えるとは思ってなかっ…どぅおわァ!だからやめろって!」
    「そもそもこいつにまで手出そうとかってアンタの頭はどうなってるワケ?こんなちんちくりん相手にするなら死ぬか一人でよろしくやってる方がマシなんじゃない」
    「シンくんちょっと今夜は直接的かつ多方面にひどすぎない…?」
    「待ってゼロスさん私死んだ方がマシなレベルなの??」
    「いやいやそんな事無いよ?!むしろ割と好みな方だから実の所マジで誘、ッソイタァ!!?」
    「アンタ本当に懲りないな。本気で蹴り飛ばすよ」
    「シンク〜もう蹴ってるよ〜ゼロスさん死んでる〜〜」

    ーーーーー

    連載中盤、情緒の安定しない夢主とのおはなし(未来の話)



    :: back / top