10:不完全な愛のかたち

「では父上、母上。行ってまいります」
「行ってまいります!」

9月1日の午前10時。キングス・クロス駅の9と3/4番線まで見送りに来た両親に挨拶をし、クリーチャーに小さく手を振ったのち、今年入学のレギュラスと共に停車中の列車に乗り込む。そう、赤と黒の車体が特徴的なホグワーツ特急である。映画で観たときは真っ黒のThe蒸気機関車!という印象を受けたが、実は後方は赤く塗装されていたらしい、というのは前回のクリスマス休暇のときに気が付いたことだ。我ながら気が付くのが遅い。

魔法族と言うと暗い部屋、黒ずくめの服で魔法薬を煎じる……みたいなイメージが強いけれど、案外派手なもの好きだったりするのかな。……人によるか。当初のイメージ通りの友人を思い浮かべたが彼は派手なものは好まなさそうだ。そうだな、うん、人によるな。

発車時間の1時間前に来た為かほとんど空いているコンパートメントを横目に長い通路を黙々と歩く。ルシウスによると、彼が列車の後方に席を取ってくれたらしいのだ。後方のコンパートメントは確か少し広めだった気がするのでそのあたりは流石ルシウス、抜け目がないといったところだろうか。

「あ、セブルス」
「セブルス……ああ、ご友人ですか?」
「そう、同室なんだ」

珍しく人が居るコンパートメントがあるな、と思い横目で見るとそこにはよく見知った顔があった。挨拶して行っていい?とレギュラスに聞くと快くOKが出たのでコンパートメントの扉をノックをする。

「ケイト?久しぶりだな」
「セブルス!会いたかったよ!」
「声がでかい」

人目も少ないし、と飛びつこうとした俺を華麗に避けコンパートメントの奥を示す。そこにはすやすやと眠るリリーとアッシュフォードの姿が。

「……うん、ごめんね。起こしてない?」
「……起こすか?」
「いや、いいよ。挨拶は着いてからでもできる」

そうか、2人とも寝てたのなら悪いことをした。そこから声を抑えて一言二言交わして、俺の背に隠れているレギュラスの存在に気付く。すまない、忘れてたわけではないんだ。

「で、だ。こちらは弟のレギュラス・ブラック。こっちはセブルス・スネイプで、あっちで寝てるのがリリー・エバンズとアルフレッド・アッシュフォード」
「レギュラスです。スネイプ先輩、お噂はかねがね」
「セブルス・スネイプ。ケイト、変な事言ってないだろうな」
「ははは、まさかそんな」

心当たりが全くない訳ではない問いに心臓が跳ね掛けたが、そこはブラック家次期当主。ポーカーフェイスで誤魔化した。レギュラスからの目線でだいたい察せられてしまっていそうな気もするが、まあ気のせいだろう。

ぽやぽやと考え込んでいたらレギュラスとセブルスの会話が途切れたのでお暇することにした。席を取ってくれたルシウスを待たせる事になるので長居するのもな、というのが建前。

本音としては、リリーが居るならどうせそのうちポッターが来て騒がしくなるだろうし、正直絡まれたくない為にはやく退散したいから。そしてポッターが来るのなら、休暇が始まって直ぐに彼の家に行ったきり帰ってきていないシリウスも着いてくるだろう。グリフィンドールに行ったシリウスのことを、既にあまりよく思っていないレギュラスと会わせて兄弟喧嘩が発生することも避けたいのである。

セブルスには本音を見透かされているだろうけどまあいいや。セブルスに見透かされて困る本音ではない。



「それじゃあ、またホグワーツで」


_____

「2人ともやっと来たね」
「あれ、ステラ?」

前を歩き、先にコンパートメントに入っていったレギュラスから驚きの声が小さく上がる。ルシウスから伝えられたコンパートメントはここで間違いない……はずなのでルシウス本人でなく、ステラが居るのもなにか理由があるのだろうか。

「やあステラ、聞いてもいいかい?」
「あぁ……私はただの場所取り要員だから気にしなくていいよ」

挨拶もそこそこに話を聞く限り、ルシウス御一行と俺とレギュラスが一緒のコンパートメントに居るには__おそらく人数的に__些か手狭である。そこで1人残して別のコンパートメントに移ったという。そしてブラック兄弟と一緒にしても気まずくならない、かつ安心して1人にできる人間として選ばれたのが俺の婚約者、ステラ・フォーリー、という事らしい。いくらレイブンクローの鬼才・ステラでも女性をひとり置き去りにするのはどうなのか、とも思わなくはないがまあ……ステラだしな……。ルシウスの判断もわからないでもない。

「ならルシウスに挨拶をしに行かないとな」
「うん、でも私とレギュラスを2人にするのは懸命な判断とは思えないね」
「そうですか?僕は別に2人でも……」

至極真面目な顔でレギュラスに「悪い輩に絡まれたらどうするんだい?」と言っているステラには申し訳ないが、何かあればステラがなんとかするだろうと思ってしまった。しかしまあ、おそらく本質はそこではない。確かにある程度仲良くなったとは言え、兄弟の婚約者と2人きりなのはちょっと……可哀想かな……。ならばレギュラスと2人で挨拶に向かうか?そうなるとまたステラを1人にしてしまう。3人で向かうと場所取りの意味が無くなってしまう。ふむ、これは。

「詰んだかな」
「あはは。ルシウスからの伝言だけど、挨拶はパトローナムでいいよと言っていたよ」
「……まだ俺2年なんだけど?」
「そういえば……そうだね」

大きな目を数回瞬かせるステラの様子を見るに本当に気が付いてなかったようだ。パトローナムといえば大人の魔法使いでも出せない人が居るくらいの難しい魔法である。ルシウスは優秀なので既に出せるかもしれないが……俺の歳を分かってて言ったのか、或いは年齢を頭から飛ばした上で言ったのか。今となってはもうどちらでもいいけれど、ここはやはりパトローナムしか手段は無いように思う。

「でもケイト、君出せるだろう?」
「兄上守護霊出せるんですか!」
「ステラは何で知って……いや、言わなくていい」

そう、少し前に1度だけ出したことはあるのだ。自宅の書庫で好奇心に駆られて。何ヶ月か試したら出せてしまって。その後魔力の使いすぎで寝込んだのと、不完全ながら出すことが出来たという事実に満足してしまったのでそれ以来出したことはない。ステラが知っていたのは開心術的なエトセトラだろう。もうなんでもいいや。半ば自暴自棄になりながら心から幸せに思う映像を思い浮かべる。

「エクスペクト・パトローナム!」

それはレギュラスが生まれてすぐに、シリウスと並んで見た弟の顔。可愛い末弟を愛しい片割れと共に見る。これ以上の幸福があるだろうか。今生ではそれが1番の幸福だった記憶だ。相変わらず杖先から出たのはキラキラ光る何か。鳥に見えなくもない大きくて不完全な何かに伝言を伝えルシウスのコンパートメントまで飛ばす。……やはり不完全なパトローナムは燃費が悪いのか、出した途端に猛烈な眠気に襲われる。

「今のは鳥かな?……おや、随分眠そうだね」
「……ねていいですか」
「あはは、いいよ。ゆっくりおやすみ」
「兄上、良い夢を」

2人から生暖かい視線を向けられた気がするがもう何でもいい。俺が寝たら弟と婚約者が2人きりになってしまうがそれもどうでもいい。俺はとても眠いので寝ます。おやすみ。

_____

「パトローナムってそんなに疲れるものなんですか?」
「もっと燃費の良くなる魔力の流し方もあるけど……不完全かつ独学ならとても疲れるだろうね」



「君にも教える機会があれば効率の良いものを教えてあげるよ」

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2021.9.21