9:サーチライトの少し外
「すみませんマダム、こいつまた授業中にぶっ倒れたので連れてきました」
満月の後、例のごとく僕は医務室の1番奥のベットで教科書を読んでいた。変身術の読んだだけではよく分からなかったページの右上を少し折り曲げて印をしておく。マクゴナガル先生に聞く前にジェームズかシリウスにでも聞いてみようか、そうぼんやり考えていたら生徒が運び込まれたみたいだ。
またですか、なんて呆れと心配の混ざった声でマダムは僕の居るベッドの1つ手前のベッドに運ぶように指示を出した。指示の通り、横抱きにした少年を揺らさないようにゆっくり運んでゆっくり寝かせる体格のいい少年に少し違和感を覚える。なんだろう、こう、妙に手馴れている気がする。
「何?」
見すぎていたのだろう。体格のいい少年は怪訝な顔をしてこちらを見る。
「ごめん、その、手馴れてるなと思って」
「よくある事だからな」
あぁ、と見られていた理由に納得したのか怪訝な表情を引っ込めてマダムにも向けていた真顔に戻る。おそらくこれが彼の通常運転なのだろう、とよく知らない僕でも思うほど、体格のいい少年の真顔はしっくりくる。
「じゃあ俺授業あるから行くわ。お大事に」
去り際にそう言った少年に驚きから一瞬言葉が出てこなかった。
ネクタイの色からしてスリザリンな事は間違いないんだけど、スリザリン生がグリフィンドール生にお大事にって言った?スリザリン生にもそういう人がいるのか、というのは酷い偏見である事を承知はしているけど、とにかく驚いた。
なんとかありがとう、と気遣いへのお礼を少年の背中にかけることは出来たけど聞こえていただろうか。
驚きのあまり教科書に集中できなくなったので教科書は開いたまま、失礼だとは思いつつも運び込まれた少年を横目で盗み見る。全体的に整った顔、黒く艶やかな髪、透き通る様な白い肌__今は青白いと言った方が正しいのかもしれないが__長い睫毛、緑のネクタイ。どうも最近似たような人を何処かで見た気がする。
「ん……あれ、医務室?」
観察を始めて少ししたとき、起き上がるのも億劫だといった様にたっぷり時間をかけて起き上がり、またか……と目を伏せた少年に既視感の正体を理解してしまった。これは、もしや。
「……俺の顔に何かついてる?」
「いや、特には……アー、君は、もしかしてケイト・ブラック?」
「?あぁ、いかにも。俺はケイト・ブラックだよ」
肯定の言葉を返しながら、驚いたような瞬きをひとつ。そんな仕草まで兄弟で似るのか。
「ライトブラウンの髪、その教科書からして同学年の、俺の顔自体は知らなそうだが見てすぐに名前を推測できるグリフィンドール、かつ痩せ型で眼鏡はかけていない……ふむ、違ったら失礼。君はリーマス・ルーピン?」
「わぁ、正解だよ」
すごい、と軽く拍手をする僕に照れたように会釈をした少年からは、彼にまつわる噂とは少しズレた印象を受ける。なんと言うか、純血主義でお高くとまる貴族様、というよりは普通に穏やかな__もちろん好意的な意味で__少年だ。特に聖28一族に含まれていないルーピン姓の僕に対して嫌悪感も見せず、普通に会話を続けようとするあたり。
「そういえば聞いたよ。君たち、盛大にハロウィンを祝ったらしいね」
「聞いたって……結構派手にやったつもりだったけどブラックは見てないの」
「その日は1日寝込んでてね」
「エッもう大丈夫……って医務室に担ぎ込まれてる時点で大丈夫じゃないね」
「ははは、体調はよく崩す方でね」
ハロウィンのときのやつはもう平気さ、なんて上品に笑いながら言うブラックはやはり良くない噂が立つようには見えない。何故だろう。
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授業中にブッ倒れたらしい俺は気付いたら医務室で寝てた上に、隣のベッドにいる少年__シリウスと一緒にいるところを何度か見かけていて、かつ至る所にある生傷を見る限りおそらく彼はリーマス・ルーピンだろう__にガン見されていた。なまじ相手の顔も良いだけにちょっと怖い。高圧的じゃない笑顔作れてるよね?大丈夫だよね?ちょっと心配になってきた。
適当な理由を付けてリーマス・ルーピンの名前を言い当てたときは少し驚いていたけどまあお互い様だろう。俺もビビったもんな。と、それよりも。
「俺をここまで運んできた人ってどんな人だったか分かる?お礼しないと」
「確か……体格が良くて無表情のスリザリン生だったよ。君を運び慣れた感じの」
僕にお大事に、って言ったから覚えてたんだ。といったリーマス・ルーピンは腑に落ちない顔をしていた。まあ知らないスリザリン生__話からすると多分アッシュフォードだけど__にそんな事言われたら確かに驚くよなあ〜わかるわかる。確か彼は混血だったような。俺が言う義理は無いので言わないけど。
「ところでそれ変身術の教科書だよね?見たところ詰まってそうだけど俺でよければ解説しようか」
そう言うと心底不思議そうな顔をしたのでお近付きの記念に、と付け加えればもっと不思議そうな顔をされてしまった。宇宙猫みたいな顔してんな。猛烈に何か選択肢を間違えた気がする。どうしよう。迷惑だったかな。
「……えっ?!ブラックが変身術の解説をしてくれるの?!」
「ウン、嫌なら無理にとは言わないけど……」
思考の世界から戻ってきた後、そういう訳じゃない、と頭を振るリーマス・ルーピンに若干安堵しつつも疑問は残る。思い切って聞いてみたところ、俺の噂とあまりにも乖離しているかららしかった。確かにルシウスと居たときにひたすら喧嘩腰で絡んで来たグリフィンドールの上級生には相応の対応をした気はするが、なるほど。お高くとまる貴族様か。お高くとまってるのかな……印象なんて自分じゃ分からないしな……
「……僕純血じゃないよ」
「へぇ」
「えっそれだけ?」
「えっ?……あぁ、確かに家は厳しいけど友人くらい自分で選ぶよ」
友人、と言うとますます驚いた顔をしていたがどうせ彼も医務室の常連だろう。ならば暇で死にかねない医務室で過ごす時間を考えても早い所良好な関係を築いておいた方が良いだろう。本当は言う気はなかったが、いつまでも納得のいかない顔をしていたので仕方なしに言ってみたらようやく納得したらしい。
「……じゃあブラック、お願いしていい?ここのあたりなんだけど」
「よしまかせろ」
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2021.1.8