明日人、剛陣、道成、小僧丸へとパスが繋がる。そのまま、小僧丸が敵陣へと切り込んでいく。
 その時、イレブンバンドがピピピッと単調な電子音を鳴らした。そこには、趙からの指示が送られてきていた。
 ――守りオンリー。
 趙によく似た顔文字とハートの絵文字を使い、可愛らしい文面を送りつけてくる趙のこともどうかと思うが、問題なのはその内容。

「守りオンリー……?」
「試合でも守り続けろってこと……!?」

 花茶と明日人が困惑し、眉を潜める。

「ざけんじゃねぇぞ、趙金雲……!!」

 これまでの練習の件もあり、小僧丸は手をワナワナと震わせながら怒りを露にした。
 ベンチでは、杏奈が「この人……本当に大丈夫かしら……」と趙を不安げに見上げていた。
 小僧丸から今度は剛陣にパスが回るが、敵の圧力に圧倒され、ボールを奪われてしまう。その一部始終を見ていた美濃道三中の監督が、「少し遊んでやるか」とニヤリと笑った。
 なんとか剛陣がボールを取り返し、隙を見て攻めいろうとするも、

「フランケン守タイン!」
「ぐああ!!」

 簡単にボールを取られてしまった。
 何度ボールを取り返して攻めても、必ず美濃道三イレブンの必殺技によって止められてしまう。雷門イレブンは試合の最中、美濃道三イレブンが要塞と呼ばれる理由を痛感していた。

「オラッ!!」
「ぐっ!」

 スライディングで花茶がボールを奪う。

「もっこり丘のモアイ!」
「なっ……!? くそっ!!」

 再び、ボールは美濃道三イレブンの元へ。
 趙の守りオンリーという指示があるために攻めることを許されない雷門中、そしてひたすら守りの姿勢を崩さない美濃道三中――試合は硬直状態だ。

「皆……!」
「息が上がっちゃってる……」

 つくしと撫子が、心配そうに試合を見守る。

「監督! イレブンのステータスを見てください!」

 しびれを切らした亀田が、趙に手元の電子機器を見せる。そこに映し出されていたのは、ステータスがボロボロの雷門イレブンのデータだった。

「体力が相当削られています! このままではまずいですよ……!」
「フム、なるほど……シュポポポポ!」

 趙は現状を理解したのか、頷き、亀田から電子機器を取り上げ、画面に指を滑らせる。

「新たな指示ですか!?」

 亀田が期待に満ちた瞳を趙に向ける。が、趙が夢中になってやっていたのは、雷門イレブンへの指示送信ではなく、ただのアプリゲームだった。

「げ、ゲーム!?」
「あっ、あれわたしもやってるー! 面白いんだよー」

 雷門イレブンは積極的に攻める姿勢を見せているというのに、こんな時に体を大きく揺らしながらアプリゲームに興じる趙に驚いたり呆れたりしたが、撫子だけは笑っていた。
 その時、実況の声がグラウンドに響き渡る。
 ――雷門の趙金雲監督、まるでクンフーのポーズでゲームをしているようにしか見えません!

「まるでっていうか、本当そうだし!」
「何考えてるの……!?」
「にはははっ!」

 つくしと杏奈ががっくり脱力している横で、撫子は爆笑していた。
 その状態のまま、0―0で前半が終了、ハーフタイムに入った。

「おい! 趙金雲!! いつになったら攻めさせんだよ!!」

 前半はボロボロだった。そのことに憤慨している剛陣が、怒鳴りながら趙に詰め寄る。

「このままではよくて引き分けです!」

 奥入も、眼鏡を直しながら声を張る。

「それじゃここで終わりだ! いい加減攻めねぇと!」

 こんな戦い方は、フォワードとして黙っているわけにはいかない――小僧丸も、趙を睨む。

「このままこんなプレー続けててもじり貧だよ!」
「監督! 俺達なんとかサッカーを取り戻しました! だからこそ、フットボールフロンティアでどこまでいけるか、思いっきりプレーしたいんです!」

 花茶と明日人が畳み掛ける。

「それならどうぞ、思いっきり守ってください!」

 趙は、満面の笑みでそう答えた。

「テメェ……!」
「今攻めても時間と体力の無駄ですからねぇ」
「アンタ! やる気あんのか!? アンタの言うこと、勝つのとは反対のことばっかじゃねぇか!!」

 焦っている様子がまるでない趙に更なる怒りが募り、剛陣が怒鳴り散らす。
 剛陣のその言葉で、小僧丸はハッとした。
 ――進むべき道が前に見えないなら、反対側を見ろ。
 あの時、豪炎寺に言われたことが、脳裏によぎる。

「反対側を……」

 趙の真意に近づいたのか、小僧丸は一人、冷静さを取り戻した。

「ちくしょう!! こっちはこんなに焦ってんのに、監督ってばあんな能天気に……!」
「いや、あれでいいのかもしれねぇ」

 不満を溢す花茶に、小僧丸がそう諭す。花茶は、「は?」と小僧丸を睨んだ。

「焦りは禁物ってことだ」
「小僧丸まで、何言ってんの!?」
「とにかく、少しは冷静になれよ、小金井」

 小僧丸が妙に落ち着いているため、花茶はカチンときたようである。

「私はいつでも冷静だっ!!」
「どこがだよ。今の自分の顔見てみろ、般若みてぇな顔してんぞ」
「んだとっ!?」

 二人の言い合いは、止まらない。

「大体、冷静なら、この状況どうすべきかわかんだろ」
「そんなのわかってるよ!!」
「わかってねぇだろ!! 少しは頭冷やせよ!!」

 小僧丸の怒鳴り声で、ようやく花茶がグッと口をつぐむ。それから、「くそっ!!」と言い捨てると、ベンチへと歩きだした。

「花茶ちゃん……」

 つくしが、不安げに花茶を見上げる。

「……ねぇ大谷さん、水か何か、ある?」
「へっ? み、水……?」

 突然花茶に水を要求され、あたふたするつくし。

「お水あるよー、水分補給用に、余分に持ってきたんだー」

 撫子が「はい」と花茶に、2リットルのペットボトルの水を手渡す。
 花茶は「これじゃやりにくいな」と、つくしが持ってきていた救急箱を漁ってハサミを取りだし、ペットボトルの上部分を飲み口ごと豪快に切り捨てた。

「ちょ、ちょっと花茶ちゃん……!?」

 つくしの制止する声に「大丈夫」とだけ答え、少しベンチから離れたところでそのペットボトルの水を頭からかぶってみせた。
 ペットボトルを少し切り落としたことで大きな穴ができたため、中の水は勢いよく出てきた。

「あっ、貴女一体何を……!」

 ギョッとした杏奈が言葉を詰まらせる。
 その一連の流れを、雷門イレブンも亀田もマネージャーたちも、呆然と見つめていた。

「……頭、冷やしたぞ。いいんだろこれで!」

 水分を含んでべったりと顔に引っ付く前髪を雑にかき上げ、吐き捨てるように、花茶が小僧丸に言う。

「相変わらず意味わかんねぇ……」

 思いきりが良すぎる花茶を、小僧丸は引きつった笑顔でそんな風に言い表した。

「馬鹿ッ、後先考えずに行動するなよ……!」
「花茶、びしょ濡れ! 風邪ひいちゃうよ!?」

 道成とのりかが慌てて駆け寄る。そんな二人に、花茶は素直に謝った。
 二人の次に、万作が静かに近付き、花茶の頭にタオルを被せた。

「お、おおう……雄一郎」
「……」

 無言で頭をわしゃわしゃとタオルで拭く万作を見て、花茶は冷や汗を流す。

「ゆ、雄一郎さん、何か怒ってらっしゃいます……?」
「……いいや、何も。花茶は昔からこうだもんな」

 ――やっぱり怒ってる!
 小さい頃からずっと、無茶をする花茶に、万作は幾度となく冷や冷やした。心配もした。

「ご、ごめんなさい」
「許す」
「ありがたき幸せ……」

 頭に血が上りきっていた花茶も、徐々に冷静さを取り戻したのだった。

 そうして、ハーフタイムは終了し、美濃道三中のボールで、後半開始。
 明日人がボールを奪うと、美濃道三イレブンはすかさず要塞守備を固めた。
 ボールは、剛陣、道成、花茶へと繋がれる。
 美濃道三中の監督は、雷門イレブンの焦りを狙い通りだと笑った。
 焦りのあまり、雷門イレブンは直に攻撃に出ると踏んでおり、その隙を突く気なのだ。
 美濃道三イレブンのプレスをかわしながら、パスを回す。得点は依然、0―0のままだ。
 再び、イレブンバンドから趙の指示が届いた。
 ――皆への注意ダヨ。
 その後に続く矢印が多すぎて、肝心の注意が中々流れてこず、苛立ちを覚える。
 ――守らない人はクビ。
 先程同様、顔文字と絵文字が使われている。

「くっ……! もう我慢できねぇ! 行くぞ、明日人!」
「え!?」
「あんな胡散臭い奴の言うことなんて聞いてらんねぇ! 攻めるぞ!」
「で、でも……!」

 面食らって動けないでいる明日人。剛陣は「上がろうぜ!」と走り出そうとする。趙の指示を無視する気だ。

「やめとけ! ……まだやめとけ、攻めるタイミングじゃねぇ」

 ハーフタイムの間に何かを掴みかけた小僧丸が、剛陣を止める。

「テメェ、何言ってんだよ! 攻める時じゃねぇだと?」
「あぁ」
「何でだよ!」

 小僧丸の行動が理解できない剛陣が、質問攻めを繰り返す。

「どういうことなの、小僧丸?」
「答えは、反対側にあるかもしれない……」

 花茶が問うと、小僧丸は花茶を見据えた。
 その瞬間、試合を観に来ていた野坂が、小僧丸が趙の狙いに気が付いたことに感心し、一方で、星章学園サッカー部監督の久遠も、趙の真意に感づいていた。
 ただ一人、灰崎は「くだらねぇ」と鼻を鳴らした。

「どういうことだよ! まだって! 俺は攻めてぇぞ!」
「でも、剛陣先輩、こうやって守りを続けていれば……」
「少なくとも、点を失うことはない」

 我慢の限界に達しそうな剛陣を、明日人と小僧丸が宥める。
 その間も試合は続いていて、花茶、万作、小僧丸の順にパスを繋げる。

「ホーホホホ。どうやら私の狙いに気付いたようですねぇ」

 趙が細く目を開き、楽しそうに言った。

「狙いー?」
「なんですか? 狙いって……」

 撫子と杏奈が、疑問を投げ掛ける。

「知りたいですかな?」
「ま、まぁ」

 ズイッと近付く趙から顔を引き、杏奈が答える。

「フフン、では、攻撃をせずずっと守備ばかりしていたら、どうなりますかな?」

 突然始まったクイズ。しかし今回は、時間制限はない。杏奈は「それは……」と考え込む。

「誰にでもわかる、簡単な問題ですけどねぇ」
「あ! 守備ばかりだと、相手は得点できない!」

 つくしが閃いたいう顔で答えると、趙は「ピンポーン!」と口で効果音を言った。
 そして二人は、何故か「いえーい!」とハイタッチをした。

「これまで多くのチームがあの要塞を破ろうと攻撃ばかりをして、薄くなった防御の隙を突かれ、敗北してきました」
「はわー……、なるほど、皆、相手の思う壺だったんですねー」

 納得した撫子は、趙を見つめる。

「その通り! 今回の防御の布陣は得点はできませんが、相手にも得点させない戦法なのです」

 しかし、このまま得点できなければ、雷門イレブンのフットボールフロンティアは、ここで終わってしまう。本戦への出場ができなくなってしまうのだ。
 ――本当にこのまま守り続ける気なのか。
 試合終了時間が刻一刻と迫り、焦りと不安が、頭を支配する。
 残り10分の時、先に動いたのは美濃道三イレブンだった。
 監督の指示を受けた美濃道三イレブンは、雷門イレブンからボールを奪うと1列になり、全員で一斉に攻めこんできた。
 その圧迫感は凄まじく、まるで動く壁だ。
 その勢いに、雷門イレブンはどんどん抜かれていく。一気にゴール前まで攻めこまれてしまった。

「もらった――!」

 美濃道三中のフォワードが、シュートを放ったその刹那――

「ザ・ウォール!!」

 岩戸が、巨大な壁を出現させた――もとい、必殺技を繰り出し、ボールを奪取してみせた。
 ベンチで見ていた壁山は、「あんな平たい壁は見たことがない」と、「芸術的な壁」だと、「彼は今まさに壁そのもの」だと褒め称えた。
 そして、これをきっかけに趙からの指示が送られてきた。
 ――攻め時キター!
 趙が狙っていた瞬間は、ここだったのだ。その指示を受け、岩戸が花茶へとロングパスを出した。
 ロングパスも、特訓していた。明日人が「特訓どおりだ!」と喜び、敵陣へ走る。

「小僧丸、さっきは怒鳴ってごめん! 頭冷やしてよかった!」
「相変わらず謝る時は素直じゃねぇか!」

 ハーフタイムでの出来事を思い出し、花茶と小僧丸が話しながら切り込む。

「へへへっ。ほら! 待ちに待った攻撃、だよ! 思いきりはじけてこい!!」

 花茶からパスを受け、小僧丸はシュート態勢に入った。

「キメてやる! 俺のあの技で……!」

 小僧丸は豪炎寺に出会い、自分もあんなボールが蹴りたいと強く思い、必死に特訓してきた。目に焼き付いた記憶を頼りに、何度も何度も挑戦した。
あのシュートで、新しい自分になると決めた。あの日豪炎寺が言ってくれた、「お前は必ず強くなれる」という言葉をを信じて。

「コイツで、反対側の勝利を掴むんだ! ファイアトルネード!!」

 決死の覚悟を持って、小僧丸がファイアトルネードを撃ち込む。その豪快で強烈なシュートは、鮮やかにゴールネットを揺らした。
 これで点差は1―0。後半戦にしてようやく雷門中が先制点をもぎ取った。

「やった!」
「先制点だー!」

 長く守り続けたが、ここでようやく点を入れられたことに安堵し、皆はワッと盛り上がる。
 ファイアトルネードを習得するのに時間がかかったらしい小僧丸だが、努力の甲斐もあってか、もう既に、完璧に使いこなしているようだ。
 フォワード同士、剛陣はグーで、小僧丸はパーでハイタッチを交わした。
 そして、思わぬところで必殺技を出すことができた岩戸が、一番驚いているようだ。

「すごいじゃん岩戸!」

 花茶がガッツポーズで称える。あまりにも驚いている岩戸に、万作が「それにしても、驚きすぎだろ」と苦笑した。

「必殺技出しそうな予兆、全く無かっただろ?」

 道成が問うと、岩戸は両手を開いてクルクル円を描く動作をし、照れくさそうに「なんか出ちゃった」と呟いた。

「あっ、それって、落書き消しのおかげなんじゃない?」
「ゴス!?」

 花茶の言うとおり、岩戸の手の動きは、趙に頼まれた雑用である落書き消しの時と同じだった。

「ホーホホホ! 壁の気持ちがわかったようですなぁ」

 ワイワイ騒ぐ雷門イレブンを見ながら、趙は笑った。

「壁の気持ち? スゴーイ!」
「どういう理屈……!?」

 純粋に言うつくしを横目に、杏奈が冷静に突っ込む。

「でもスゴいです! いきなり点入れちゃうなんて!」
「確かに……どういうことです?」

 つくしと杏奈の二人が趙に質問すると、

「私のよく知るクンフーにこういう技があります。カーウンターオ!」

 なんとも胡散臭い話である。

「へー!」
「なるほどー、クンフーの応用だったんだー!」
「え、絶対違う! 今、カウンターって言いましたよね?」

 すっかり信じきっているつくしと撫子に呆れながら、杏奈は趙を問い詰める。

「違います、カーウンターオ!」
「カーウンターオ!」
「にはははっ、カーウンターオー!」
「中国風に言ってるだけだし……」

 杏奈だけがまともなようだが、その後もしばらくの間カーウンターオの応酬が続いた。
 その側に、またあの中国チックな被り物を身に付けている子供がいることに、杏奈だけが気付いた。

「大きいものを倒すには条件があります。相手の力を利用することです! 相手が攻撃しようと迫る勢いが、こちらの攻撃に上乗せされ、より強力な攻撃となるのですよ!」

 やっとまともな解説を始める趙。
 言うのは簡単だが、それをしっかりこなすには、強い忍耐力が必要になる。雷門イレブンは、それを見事乗り越えることができたのだ。

「それに、彼らは守り続けるという同じ手を使われて、かつて体験したことのない焦りを感じてしまったわけですよ。ホーホホホ!」

 美濃道三イレブンは雷門イレブンを焦らせるつもりが、逆に焦ってしまい、その足元をすくわれてしまったというわけだ。
 そして、試合再開。小僧丸がボールを奪い、剛陣へパスを出す。

「俺だって見せてやる! 特訓の成果!!」

 小僧丸の得点に火がついたのか、剛陣がシュート態勢に入る。

「ファイア……!」

 日和から「トルネードですよ!」とツッコミが飛んでくる。

「レモネード!!」

 日和のツッコミも虚しく、思いきり技名を間違えた剛陣の普通のシュートは、ゴールキーパーに簡単に止められてしまった。

「うーん、惜しいっ!」
「え、惜しかったかしら? 相手のゴールキーパー、余裕で止めているように見えましたけど……」

 つくしが悔しそうに言うと、杏奈はそんなはずがないと反論する。

「ファイアレモネードってなんか、レモネードなのに辛そうだよねぇ」

 撫子は一人ズレたことを言っていた。
 和やかな雰囲気の中、美濃道三イレブンは監督の指示で、新たな作戦の準備を始めていた。

 ゴールキーパーがボールを出し、試合再開。その直後、美濃道三イレブンの四人が一列になり、一人一人の背後に見えていた大きな壁が、ガッシリと繋がる。

「レンサ・ザ・ウォール!!」

 窮地に立たされた美濃道三イレブンの、新たな必殺技。
 必殺技を複合させること……即ちオーバーライド――ザ・ウォールを4連続でオーバーライドさせたのが、このレンサ・ザ・ウォール。
 その大きな壁になす術なく、自陣への侵入を許してしまう。
 しかし、そこで岩戸の捨て身のアタックにより、美濃道三イレブンが運んでいたボールがこぼれた。
 ボールが転がった先にいたのは、貴利名。
 これをどう乗り越えるか――貴利名は考える。ジッと、美濃道三イレブンの動きを凝視する。すると、綺麗に繋がっているように見えたレンサ・ザ・ウォールは、少しずつタイミングがズレており、一瞬の隙が窺えた。

「ここだ! 氷の矢!!」

 岩戸に続き、今度は貴利名が必殺技を繰り出す。
 鋭く尖る氷のように放たれたボールは、ロングパスとなり、レンサ・ザ・ウォールの隙を掻い潜って明日人の足元へ吸い寄せられる。

「いっけぇ!!」

 明日人が全ての力を足へと集中させ、渾身のシュートを放つ。
 そのシュートは、ゴールキーパーをすり抜け、ゴールへと突き刺さった。

「やった!!」

 2―0。雷門中が追加点を決めたところで、試合終了。
 雷門中は、失点することなく勝利した。
フットボールフロンティアでの、初勝利。その喜びを、しっかりと噛み締めた。

「まずは1勝!!」
「絶対いけますよね、俺達なら本戦!!」
「あぁ!」

 道成と明日人が、そう確認しあう。

「サンキューな、小僧丸。俺が攻めようっつったの、お前が止めたからこうなった」

 ――もし小僧丸が止めなければ、焦りで先走って、趙の作戦を台無しにしていたかもしれない。
 剛陣は小僧丸がいてよかったと、改めて思った。

「私も。ハーフタイムの時は、完全に理性ぶっ飛んでた。ありがとね、小僧丸」

 花茶も剛陣の後に続ける。

「ま、確かに……俺がいたおかげだよな」

 二人の気持ちを汲み取り、小僧丸はわざと自意識過剰な態度をとってみせた。

「あぁ!?」
「だけど忘れないでよね、小僧丸は腰抜け予備軍なんだから!」
「だから腰抜け予備軍ってなんなんだよ」

 小僧丸の態度を本気にしたわけではないが、短気な剛陣と花茶がここぞとばかりに言い返す。
 そして、おかしくなって笑いあった。

「凄かったな! さっきのロングパス!」

 一方で、明日人は貴利名の必殺技を称賛していた。

「あぁ。あの軌道、水まきと一緒だった」

 貴利名は、水まきの雑用が役に立ったと笑う。

「え……じゃあやっぱり監督は……」
「必殺技を覚えられたのは、あのくじ引きで当たりを引いたからか……?」

 貴利名の言うとおり、くじ引きで当たりを引いた岩戸と貴利名が、今回の試合で必殺技を修得した。
 あの雑用があったおかげだという推測も、間違っているとは言い切れない。

「きーちゃん!」

 そんな話をしていると、ベンチからハイテンションで撫子が貴利名と明日人の元へ駆け寄ってきた。

「その呼び方、定着したんだ……」

 貴利名は苦笑いを浮かべる。

「さっきのどうやったのかわかんなかったけど、なんかすごく強そうだった!」

 撫子は貴利名の手を取り、ブンブンと上下に振り、それから陽気に揺らし始めた。

「かっこよかったよー!」
「あ、ありがとう」
「氷浦が撫子さんの雰囲気に飲まれてる!」

 完全に撫子のペースだと、明日人が目を丸くさせた。

「ふふ、撫子ちゃん楽しそう! 杏奈ちゃんも楽しかったでしょ?」
「えっ……まぁ、多少は」

 撫子の様子を見ながら、つくしが杏奈に問いかけると、杏奈は素直になれないだけかそれとも本心か、曖昧に言った。

 今回の試合で壁山に注目された岩戸は、ザ・ウォールを美濃道三イレブンのレンサ・ザ・ウォールにもピッタリの高さと厚さだと褒められ、壁同士より壁らしい壁目指して切磋琢磨していくことを約束した。

 試合を観戦していた久遠は趙を徹底的に調べる選択をし、また、野坂も、過去のサッカーの記録に一切存在しない趙のことが気にかかるようだった。西蔭は野坂の実力を認めており、気にする必要はないと断言した。

 そして、試合が終わるとさっさと雷門スタジアムを後にした灰崎のズボンから、可愛らしい熊のストラップが顔を覗かせていた。

 今後、彼らがどのように係わってくるのか――雷門イレブンは、まだ知らない。
 新たな幕が上がろうとしていた。