美濃道三中との試合で見事フットボールフロンティアでの初勝利をあげた雷門イレブンは、次なる試合までしばしののどかな日を送っていた。
 明日はAブロック予選第3試合、星章学園対木戸川清修の試合が行われる。
 その試合の観戦を控え、明日人と花茶は何故か趙にお使いを頼まれていた。

「監督……、地図がいい加減すぎるよ」

 明日人が託された地図は、ほぼ道順と目的地しか記されておらず、周辺の店などの情報は一切書かれていなかった。
 明日人はため息をついた。

「こんなんじゃ全然わかんないね」

 花茶も、深くため息をつく。

「うん、しかもスポーツタオルなんて、わざわざ別の町まで来なくてもいいのに……」

 スポーツタオルを買うためだけに、二人は稲妻町を出て、少し離れた町までやって来たのである。

「あ! アレじゃない?」
「本当だ、やっと見つけた!」

 明日人が指差した店は、趙が使いをさせるべく選んだスポーツショップだった。

「やっと着いたー! さっさと買い物して帰ろ!」

 歩き疲れたらしい花茶が、一目散に駆け出す。
 しかし、スポーツショップの手前にある店の前を通りすぎようとした時、ピタリと足を止めた。

「……ん?」
「どうしたの、花茶?」

 後を追ってきた明日人が、花茶の隣で足を止める。

「あれ……灰崎?」

 スポーツショップの手前にある店――ゲームセンターの中を覗くと、確かに灰崎の姿があった。
 制服姿だったため、学校帰りだということが見てとれる。しかし、サッカー部の活動はどうしたというのか。不思議に思った明日人と花茶は、思いきって話しかけてみることにした。

「おぉ……なんか賑やかだな……」
「ここってアレだよ、ゲームセンター! 島には無かったよね」

 店内に入るとたくさんのアーケードゲームやユーフォーキャッチャーの音が混ざりあって、とても騒がしい。
 島には無かったゲームセンターを物珍しげにキョロキョロと観察しながら、ユーフォーキャッチャーを操作している灰崎に近付く。

「あの、星章学園の灰崎くん……だよね? 明日、試合観に行くから!」

 明日人が恐る恐る声をかける。すると灰崎は、目だけで明日人と花茶の姿を確認する。

「誰だ、お前ら」

 一度試合をしたというのに、この発言。灰崎は雷門中のことは眼中になかったらしい。

「えっ、ほら、この間試合したでしょ? 雷門中の、稲森明日人!」
「同じく、小金井花茶!」

 二人が胸を張って自己紹介をすると、

「あぁ……あのヘナチョコ中か」

 灰崎は、興味無さそうに悪態をついた。

「ヘナチョコ……!? 雷門中はヘナチョコじゃない!」

 慌てて明日人が否定すると、灰崎が「負けただろ、完全によ」と現実を突きつけてくる。

「けど、そっちのお前」
「は……、わ、私が何よ」

 おもむろに、灰崎が花茶に視線を移す。

「お前のことはなんとなく覚えてるぞ」
「えっ。さっきは知らない素振りだったのに……」
「今思い出した。お前は雄叫び女だな」

 雄叫び女――確かに花茶は、星章学園との試合で諦めかけた時、小僧丸の叱咤で気合いを入れ直すため、自分を奮い立たせるために雄叫びをあげたが。

「女の子に向かって、そのあだ名は無いんじゃない? ねぇ?」

 花茶がひきつった笑顔を作るが、そのこめかみには青筋が立っている。

「俺が知ってる女はあんな汚い雄叫びあげたりしねぇ」
「喧嘩売ってんのか……!!」
「そんな汚い言葉遣いもしねぇ」

 言い返すほどに灰崎のトラップに引っ掛かっている気がして、花茶は拳を握り唇を噛み締め、グッと我慢した。

「お、俺達、確かに負けたけど、まだここから巻き返すさ! 俺達は全国にいくんだ!」

 空気を変えようと、明日人がそう意気込む。

「フッ、あの程度の実力でいけるかよ」

 ユーフォーキャッチャーを操作しながら、鼻で笑う灰崎。

「いけるさ! どんな特訓をしても食い下がってみせる!」
「へいへい」
「返事は一回!」
「指図すんな」

 明日人はガッツポーズで言うが、灰崎は適当な生返事をするだけだった。
 花茶のツッコミにも、気だるげに答える。

「てかさ、灰崎だってこんなところで遊んでる場合じゃなくない? 明日試合じゃん、その調整とかあるんじゃないの?」

 花茶が疑問に思い、問いかけると、

「明日の試合には出ねぇよ」
「え!? なんで? スタメンでしょ?」

 衝撃の答えに、明日人が声を張る。

「試合に出るかどうかは俺自身が決める。明日はノらねぇ、だから試合には出ない。以上」

 灰崎は連絡事項のようにサラリと言ってのけた。
 そういえば星章学園との試合の前、杏奈が言っていた。灰崎が試合に出てくるのは、3試合に1度だと。それは、つまり、灰崎の気分次第だったというわけだ。

「星章学園ではそんな勝手が許されるの!?」
「俺クラスになるとな」
「えー。星章学園と言えばアレじゃん、進学もスポーツも両立した名門校じゃん? お堅いイメージがあるんだけど……」
「そんなこと、俺には関係ねぇよ」

 質問攻めに苛立ってきたのか、灰崎は語気を強くして答えた。

「せっかくの試合でしょ? 何で出ないんだよ……」
「っせーな! 俺の勝手だろうがよ!」

 明日人が残念そうに言えばそう吐き捨て、ガシャンとユーフォーキャッチャーが景品を落とす。
 灰崎が取ったのは、可愛らしいテディベアだった。

「じゃあな」
「灰崎……」

 そのまま去ろうとする灰崎にかける言葉が見つからず、立ち尽くす。

「灰崎、テディベア好きなの?」

 不意に花茶が問う。

「これは俺のじゃねぇよ」
「なんだ、そうなの。イメージと違うなーって思ってびっくりしたよ。なんていうかそういうのは可愛い女の子が持ってるものだもんね、私みたいな」
「悪いけどお前にも似合ってねぇぞ、雄叫び女」

 ドヤ顔で花茶が言うと、灰崎から鋭いツッコミが返ってくる。
 花茶は「うっ」と言葉を詰まらせた。

「そのあだ名で呼ぶなっ!」

 花茶が必死に絞り出した言葉を背中に浴び、灰崎はゲームセンターを後にした。

「灰崎、どこ行ったのかな……あのテディベア、どうするんだろう」
「さ、さぁ……。まさかこんなところで会うなんて驚いたけど……スポーツタオル買って帰ろっか、花茶」
「……明日人、ごめん、私、灰崎を追いかけてみる」
「ええ!?」
「先帰ってて!」

 それだけ言うと、驚いて制止する明日人を置いて、花茶は灰崎の後を追った。


***


 バレないように尾行すると、灰崎が足を運んだのは私立総合病院だった。

「まさか、灰崎が怪我を……? いや、自分のじゃないテディベアを持ってったってことは、お見舞いか何かかな?」

 受付で何か手続きをしている灰崎を、病院の外から眺め、推測する。

「何やってんだ? お前……」
「ヒョワァァァ!!」

 突然背後から声をかけられ、内緒で尾行していたのもあって、思いっきり情けない声をあげる花茶。
 勢いよく振り替えると、そこにはZゼミ帰りの小僧丸が呆れ顔で花茶を見ていた。

「こ、こ、小僧丸! 驚かさないでよ!!」
「知らねぇよ。つーかお前、めちゃくちゃ怪しかったぞ」

 コソコソと動いていたのが不審すぎたらしい。

「何してんだ、こんなところで」
「さっきゲームセンターで灰崎に会って、追いかけたら、病院入って行って……」
「尾行かよ、趣味悪ぃな」

 小僧丸の目は、不審者を見る目だった。

「しかし、病院か……確かに気になるな」
「で、でしょ?」
「追ってみっか」

 躊躇なく病院に入っていく小僧丸の後ろから、花茶もついていく。
 手続きを済ませたらしい灰崎は、奥へと入っていった。
 気付かれないよう、忍び足で後を追う。
 灰崎は、とある病室に足を踏み入れた。

「こういうの、好きだろ?」

 その病室に入院していると思われる、おさげの少女に、持っていたテディベアを渡す灰崎。
 しかし、少女は何も反応を示さない。そんな彼女を悲しそうに見つめた後、灰崎は病室にあるテレビの横にテディベアを座らせた。

「お前の心は、どうしたら戻ってくる……?」

 弱々しく呟いた灰崎の表情から、寂しさと悲しみ、やるせなさが窺える。
 灰崎は静かに、彼女との思い出に胸を馳せた。
 入院している少女――宮野茜。彼女は、灰崎の幼馴染みだ。
 幼い頃、灰崎は、隣に引っ越してきた茜と仲良くなった。灰崎の母は、茜と仲良くなったことで息子が明るくなったことを、心から喜んでいた。
 それからよく遊んでいた二人だったが、ある日突然、茜が新しい学校に行くこととなり、離ればなれになってしまう。
 その新しい学校に茜は選ばれ、タダで通うことができる。それは、貧乏な宮野家にとっては、救いの手とも言える話だった。
 茜は語った。そこでたくさん勉強して医者になって、病気の人を助けてあげるのだと。そんな茜を、寂しく思いながらも灰崎は見送った。茜が残した、「アレスのなんとか」という学校に会いに行く約束をして。
 そうして何ヵ月も経った後、茜を乗せた車が帰って来た。灰崎はそれを確認すると嬉しくなり、駆け寄った。
 しかし、そこにいたのは、変わり果てた茜だった。
 車椅子に座り、昔のような生気は、その無表情からは感じ取ることはできなくなっていた。

 その壮絶な過去を、小僧丸と花茶は知るよしもないが、二人の雰囲気から、何か事情があるのだということは、察することができた。

「アレスだ……アレスの天秤が茜をこんなにしやがったんだ」

 灰崎が悔しそうに拳を震わせる。
 アレスの天秤――それは、幼少よりDNA分析に基づいた無駄のない合理的な教育プログラム。子供一人一人にあった、最高の教育プランをシステムが提案し、そのプログラムを終えることができれば、あらゆる能力に秀でたハイクオリティの人間が誕生する。進化した人間を生み出す新世代の教育プログラム、アレスの天秤は、月光エレクトロニクスが誇る最新鋭のコンピューターシステム、AR―2000によって実現している。
 また、アレスの天秤の教育システムを使って育成されたサッカーチームも存在しており、個々の能力を最大限に引き出された彼らはまさに達人――近いうちにサッカー界を席巻すると謳われている。
 月光エレクトロニクスはそれにより、アレスの天秤の力が世界に証明されることを望んでいるのだ。

「アレスの天秤が茜の心を破壊した……俺はあのチームを叩き潰して、アレスの天秤が何の意味もないことを証明する……!」

 灰崎は月光エレクトロニクスを憎み、アレスの天秤の力を否定的に捉えているようだ。

「サッカーをやっていればお前をこんな目にあわせた奴らを復讐できる……その日がくるまで俺はサッカーを続ける」

 茜のためにサッカーをしていて、更に復讐までするつもりだという灰崎の目からは、強い覚悟が見受けられた。

「復讐だと……?」
「灰崎は、あの子のために今まで……」

 複雑な感情を抱いたままだが、灰崎が病室から出てこようとしたため、小僧丸と花茶は急いで物陰に隠れた。
 灰崎が待合室へ戻ると、明日の試合に向けての、木戸川清修の会見がテレビで流れていた。
 その放送を、灰崎はジッと見つめる。遅れて、小僧丸と花茶も到着する。幸い、灰崎はテレビに夢中で二人の存在に気が付いていないようだ。
 テレビの中では、サッカー強化委員として木戸川清修に派遣されている豪炎寺が意気込みを語っていた。
 ――星章学園はターゲットに捉えている。キーマンである灰崎は、星章学園の力でもあり弱点でもある。完全なるチームワークを誇る我ら木戸川清修なら綻びを抱えた不完全な星章学園を倒せる。
 その自信満々な言葉を聞き、灰崎は怒りを覚えた。

「なんだと、豪炎寺……!」

 テレビの画面を睨み、舌打ちをすると、灰崎は病院から出ていった。

「おい、そろそろ帰るぞ、小金井」
「……」
「小金井? 何ボーッとしてんだよ」
「……え、あ、うん。ごめん……何でもない。帰ろっか」

 灰崎のことが気にかかるのか、花茶は終始呆けていたが、小僧丸の呼び掛けで首を横に振り、力なく微笑すると歩き出した。


***


 翌日。今日はいよいよ、Aブロック予選第三試合、星章学園と木戸川清修が対決する日だ。
 明日人、小僧丸、道成、万作、つくし、杏奈、花茶、撫子の9人は、試合が行われる星章学園スタジアムを訪れていた。

「さぁ、こっちですよ!」

 つくしが張り切った様子で皆を案内する。ハイテンションなのはいつものことだが、今日はいつも以上な気がする、と、花茶は微笑ましく見ていた。

「ここですね、サッカープレーヤーズゲート!」
「え? ここ?」
「でもこの間の試合の時は、あっちから入れてもらったけど……」

 花茶と明日人が、疑問を口にする。
 つくしに案内された入り口は、星章学園と試合をしたあの日に通った場所ではなかったのだ。

「今日はこれがあるじゃないですか!」

 そこでつくしが取り出したのは、ついこの間発行したばかりのイレブンライセンス。
 どうやら、サッカー関係者はイレブンライセンスがあれば、一般人とは別の入り口――サッカープレーヤーズゲートを通ってもいいらしい。
 皆は早速、順番にイレブンライセンスをゲートでかざし、読み込ませ、会場内に入る。

「おー! なんかアレー、電車の改札みたーい」
「撫子、似てるけどその例えはちょっと……」

 ピッとカードを読み込ませるのが楽しかったらしい撫子が、なんとも普通な例えを披露した。その例えを、間髪いれず杏奈が指摘する。

「なんかズルしてる感じがする……」

 真面目な明日人からは、少しの罪悪感を滲み出している。

「一般の人から見たら、今のサッカープレーヤーは特別な存在なんだ」
「VIPだな」

 落ち込む明日人を、万作と小僧丸がフォローする。

「VIPかー、なんか偉くなった気分!」
「本当に気分だけ、だがな」

胸を張り、腰に手を当てる花茶。小僧丸が突っ込めば、花茶は頬を膨らませて一言余計だと文句を垂れる。
 その時、周りから黄色い声援がとんだ。

 そよ声援が向けられた先にいたのは、王帝月ノ宮中の野坂と、そのチームメイト達だった。

「王帝月ノ宮の野坂くん! いつ見てもかっこいいですねー!」

 野坂を推しているつくしも、ポワポワとハートを飛ばしながら、頬を緩ませている。

「視察で来てるのかなぁ?」
「野坂、くん?」
「ホラ、この間プレーヤーズカードで人気だって教えたでしょ?」
「あぁ……それで、彼はすごいの?」

 杏奈が問いかけ、つくしが意気揚々と説明を始める。

「戦術の皇帝っていう異名を持ってて、プレーもすごいし、顔も整っているの! 更には勉強もパーフェクトらしくて、3拍子揃ったプレーヤーなのよ!」
「ふーん……」

 つくしの説明を聞き終えた杏奈は、興味無さげな声色で軽く返事をした。

「あれれーっ? 少しは興味湧いてきたのかなっ?」

 嬉しそうにつくしが言うと、杏奈は「ぜーんぜん」とつっけんどんな返事を返した。

 それから、観客席に移動すると、既にほぼ満員状態だった。
 着席してすぐに、それぞれのスポンサーのCMがモニターで流れた。
 流石は星章学園、そして木戸川清修。どちらもファンがたくさんいるらしい。
 鬼道がサッカー強化委員として派遣されているため、相当練習を積み重ね、仕上げてきた木戸川清修。対して、星章学園は、試合前日に灰崎が練習に参加しなかったり、試合直前のミーティングでも言い合いをしたりと、いざこざを抱えたままの星章学園。
ピッチの絶対指導者謳われる鬼道は、「打てるべき手は打った。後はこのチームの力次第だ」と言っていたが、果たして――。
 この2校がどのような戦いをするのか、注目が集まっている。

 スタジアムのモニターに、それぞれのスタメンとポジションの情報が映し出される。
 それを見て、スタジアム内の誰もが驚いた。
 なんと、灰崎の名前がゴールキーパーのポジションにあったのだ。

「流石にこれは、理解に苦しむな……」
「久遠監督は、才覚のある戦術監督だと聞く。考えなしに、あんなことするとは思えないが……」

 観客席の万作と道成が、想像もつかない試合展開に唾を飲む。
 一方、同じく試合観戦に来ている野坂は、星章学園の作戦を見抜いていて、久遠や鬼道の意図を理解していない灰崎はどう対応するのか、また前回の試合であった問題点についても関心を持っていて、試合展開を楽しみにしているようだ。
 全ては、豪炎寺の実力を知り、本気を出さなければ星章学園は負けると断言した鬼道の提案だ。
 ――豪炎寺の恐ろしさをわかっていない。
 ミーティングでそう言っていた鬼道に、灰崎は何故そこまで豪炎寺を恐れるのかと問い掛けた。それに対し、鬼道が言った「試合が始まればすぐにわかるさ」という言葉の意味を、灰崎は試合開始直後に知ることになる――。

 久遠の作戦に疑問を抱く二階堂。そして、自分が従うべき監督であるはずの久遠が出した灰崎への指示を、心から信じきれない水神矢。水神矢は、チーム全員の灰崎への不満から、何かしでかせば灰崎はチームをおわれることになってしまうと考え、「監督は灰崎を排除するつもりなのか」という疑念を抱いていた。
 そのわだかまりを残したまま、試合が始まってしまった。
 武方3兄弟が素早く攻め上がっていく。
 そのまま一気に、豪炎寺へとパスが回った。

「速い!データ以上のスピードだ!」

 思いもよらぬ実力に、星章学園が焦りを見せる。

「豪炎寺さん、すげぇ!」
「本物初めて見たけど、やっぱりめちゃくちゃかっこいいな……!!」

 小僧丸と花茶が、豪炎寺のプレーを見て目を輝かせている。
 その時、豪炎寺がシュート態勢に入った。

「くる……!!」

 緊張感に包まれるスタジアムに、小僧丸は息を飲む。

「ファイアトルネード!!」

 豪炎寺の、元祖ファイアトルネードが炸裂する。
 灰崎はその迫力に、目を見開き、思わず尻餅をついたまま、動けなくなってしまった。そんな灰崎をフォローするように、星章学園は二人がかりで体を張り、ファイアトルネードを止めてみせた。

「ファイアトルネードが止められた!」
「いや、あれは牽制だ。本気のファイアトルネードはあんなもんじゃない……」

 驚き熱が入る道成に、小僧丸が冷静に解説する。
 鬼道相手に少しも手加減をせず、磨かれた木戸川清修はこれまでとは別次元――鬼道はそう思った。
 手も足も出ず、ただ守られるだけだったこの屈辱に、灰崎は耐えられるのか。野坂と西蔭は静かに見定めていた。
 先制点を奪われ、焦る星章学園。それでも鬼道は心配するなと笑う。最後に勝つのは俺達だと。

「俺はこんなところでウダウダやってる暇はねぇんだよ! 鬼道――っ!!」

 灰崎の、憤怒の叫びがこだました。