◆◇ 01
時は2005年。わたしは晴れて呪術高専生となった
──前世の記憶を引き継いだまま。
前世での最後の記憶は正直よく覚えてない。なんかめっちゃ高熱出たから薬飲んで寝て起きたら呪術廻戦の世界にいた。しかも前世での年齢よりずっと幼くなっていた。ハッキリ言って最初は夢だと思ったけどそうじゃないらしいというのも、ここが呪術廻戦の世界であることも過ごしているうちにわかった。所謂転生ってやつか、と思ったと同時に一つわたしに大きな指針ができた。
夏油傑をできるだけ生かしたい。幸せにしたい。
前世では漫画は割と読む方だったけど直近でハマったのが呪術廻戦で、みんなに笑って生きててくれる世界があったらと願ったし、その中でも特にわたしは彼に思い入れがあった。0巻で彼の最期を見て、本編で彼の身体がどこぞの誰ともわからんような怪しい輩にいいように使われているのを見て、どうにかしてあの優しすぎる彼に幸せになってほしいと思った。だって自分しか知らないようなしんどいことに耐えて耐えた先に絶望があって、そこで彼一人でも呪術師をやめてその苦痛から解放されるという選択肢だって存在したはずなのにそうせず、仲間の死に疑問を抱き、世界ごと変えてやろうとまたもう一度自分しか知らない苦痛の道を自ら選ぶという行為を優しさと呼ばずして何と呼ぶのだろう。どうにかして彼に幸せになってほしくて二次創作物を漁りまくったし、夢小説もめっちゃよんだ。なんなら創作する側にも一時期なった。
彼の選択を否定する気はないし、そう至った経緯もわかる。だけどそれとは別に、わたしは彼に幸せになってほしいのだ。彼に、彼自身を大事にしてあげてほしいのだ。背負いすぎて抱え込みすぎないで、手を取りあってみんなで未来に進む世界線だって実現できるはずだ。そしてわたしはそうなるようなお手伝いがしたい。
そんな願いをカミサマが拾ったのか、わたしはこの世界に来てから呪霊が見えたし“わたしの目的にはちょうどいい”術式もあった。
因果律に干渉する術式、といえばよいのだろうか。目の前で起こる状況を少しだけ”ズラす“ことができる。
例えば、走ったけど乗りたかった電車に間に合わなかったとする。そこに干渉して乗りたかった電車に乗れたことにする、みたいなことだ。
ただ、やっていることのスケールがあまりにも大きすぎる。
今の例だけで言っても
・自分を物理的に(電車内へ)移動させる
・満員電車だった場合移動先に無理やり一人分の隙間を作る
・そのために他の人間の配置にも干渉する
・この一連の流れに於いて生まれた矛盾の認識を阻害し、誤魔化す干渉
この四つが少なくとも行われているわけで、チートのようでいて一瞬の電車に間に合う間に合わないみたいなしょーもないレベルでも必要とされる呪力量がありえんほど多くコスパは最悪だ。
しかも“呪霊を祓う”という行為には壊滅的に向いていない。無理やり活用させるとしたら呪力を込めた遠距離武器が外れたときに当たったことにするとか、緊急回避程度にしか使えない。しかもそれもわたしの意識がなくなるほど一瞬で確実に決着がついてしまった場合術式が発動できるはずもない。わたしの術式は“既に起こった事象”にしか干渉できないから未来予知ではないのだ。原作知識という名の未来予知はあるっちゃあるが逆に原作に描写されてること以上はわからんし。
他の術師のサポートというのもまた違うと思う。わたしの術式は常時発動するようなタイプではないし、もし仲間の術師を緊急回避させたとしてそう何度も連発できるようなものでもない。連発できるかどうかすらそもそもどのくらいスケールの干渉かで変わってくる。
わたしがこの術式の中身についてだんだんと知っていく中で、決めたことがある。
わたしの術式は本当に必要なときにしか使わない。いつ大きめの干渉をしてもいいように呪力はできるだけ温存すること。そして、わたしの術式自体をできるだけ秘匿すること。
もちろん術式の練習は必要だと思う。秘匿するとなるとその練習が高専内ではできないことになる。だけどわたしには幸い時間がたっぷりあった。前世の記憶を引き継いで転生した以上、義務教育内の勉強に真剣に取り組む必要がなく高専に入る前にわたしは自分の術式の本質と真剣に向き合い、練習し、これから変えたい結末をどうやって変えていくか綿密に計画を練る時間があった。
そのせいで今世は高専入学決定までの他者との友好関係を築くことを切り捨てることなってしまったが。まあそこは正直割とどうでもいいというかわたしの一番の目的のためのコラテラルダメージみたいなものだと思って割り切った。
高専への入学は自分から志願した。原作を見るに信用に足る人物だと思ったので(当時はまだ一教員だった)夜蛾先生をどうにかして探し出し、直談判だ。
「わたしと同じようなものが見える人たちがいるってきいたんですけど〜」みたいなことをつらつら並べて話し合いの場を設けたのち、自分の術式の内容を明かした。こういうとき前世で接客業ちょっとでも経験しといて良かったと思う。愛想大事。
その上でわたしの前世の記憶について「少しだけ未来視ができるがタイミングもディテールもランダムである」という設定で誤魔化し(もちろん内容は伝えていない。ここから先のことはまだ視えてない設定で通した)、「もしこの未来視で悪い出来事が視えたときのためと、第三者に知られて悪用されることを防ぐために自分の術式は温存,秘匿したい」という旨を伝えた。夜蛾先生ははじめ懐疑的だったがわたしの真剣な口調と目の前で少しだけ因果律を弄る術式を実践して見せたことで信用はしてくれるようだった。
夜蛾先生との話し合いの結果、わたしは呪術高専へ”術式なしの生徒“としての入学が決まった。
当面の間、わたしの術式を知っているのは夜蛾先生とわたしの二人のみということになる。
ただ、夜蛾先生からも条件を出されていた。視えたものはできるだけ報告することとその内容やわたしの行動如何では上に報告するかもしれない、といったことだ。これに関しては呑むしかないだろう。そもそもわたしは嘘ついたしこちらの我儘も通してもらっているし上層部にも黙っててくれるというのだから。
……ここまでは割とうまくいってる、かも。
prev / back / next