◆◇ 02


「芸術……」

入学初日から大誤算が起こるだなんて誰が想像しただろうか。夏油さんを救う計画を練ったりイメトレしたりというのはなんべんもしたが、いざ本人を目の前にしたときの推したちの顔面の良さに対しての受け身の取り方なんていっこも練習してない。
つまり早い話が気づいた時には思ったことが口から漏れてたってこと。

「え?」
「アッなんでもないです……」

あーーおしまいだよもう。何やってんだ。第一印象変な奴だよ。初対面で第一声「芸術」って何。
言い訳をさせてもらうと、こちらの世界に転生したわたしは前世なら漫画やら二次創作物やらでいつでも拝めた顔をもう10年以上見れてない中でイメトレと術式の練習を繰り返していたのだ。イマジナリーさしすよりご本人達の方が美しくて輝いていることは当たり前だけれども当たり前すぎて頭からすっぽ抜けていた。
とりあえずこの第一印象をなんとかしなければ。

「わた、わたし苗字名前っていいます!皆さんのお名前を……」
「ハァ?ザコに教える名前なんてねーよ」
「あ、あはは……」

そうだった。この時代の五条悟は何様俺様悟様だったっけ。わたしがザコだってこと知られてるのか。夜蛾先生から術式なし生徒もいるみたいな説明でも受けていたのだろう。まさか食い気味に挨拶を拒否られるとまでは思ってなくて引き攣った笑いしか出なかった。

「何だその言い方。君は挨拶もまともにできないのか」
「んだと?」
「あー、家入硝子。硝子でいい」

早くもピリピリしはじめた空気を気にも留めず硝子ちゃんが名乗ってくれた。硝子ちゃんかなり聖母かもしれない。このいい意味で他人にあんまり興味なさそうなところが好きなんだよな、と少し淡くなってきた本編の記憶を引っ張り出して思った。

「お前ら……初日から面倒を起こすな」
「あ」

こんな状況の中がらがらと扉を開けて入ってきたのは夜蛾先生だ。この場をなんとかできる人が来てくれたのは助かる。いや、真面目に助かる。
夜蛾先生の登場のおかげで初日の乱闘騒ぎは始まる前に鎮火した。

***

「──これでオリエンテーションは終わりだ。今年の一年生は見ての通り4人。仲良くするように。」

オリエンテーションの間真面目に話を聞いていたのはどうやらわたしだけのように見えたが、話を妨害しているわけでもないので特に先生から注意をする様子などはなかった。それにしても話を聞く態度じゃないだろというような座り方をしていた者が約一名いたが。

「あーーダル。一生続くのかと思った」
「この後どーすんの。今日これで解散?」
「そ、そうじゃないかな?夜蛾先生行っちゃったし……」

そう。この後のことについて指示がないまま夜蛾先生は教室を出て行ってしまった。
時刻は現在午後3時をまわったところ。さて、これからどうするか。

「そういえば名乗ってなかったね。私は夏油傑。よろしく」
「ケッ馴れ合いかよ」
「はあ……」
「よ よろしく夏油くん!そうだ、これから予定とかなかったらみんなでウノとかしない?わたし家から持ってきてるんだ!親睦会しよう!」
「へー。いいよ。お菓子適当に持ってく」
「私も特に予定はないから構わないよ」

今朝の続きが始まる予感がしたのでなんとか話を逸らしたくて急ではあるが提案してみる。すると意外なことに割と乗り気であった。一名を除いて。

「折角だし夕飯も持っていこう」
「その…それだとその……一人になっちゃわない…?」
「いーんじゃない。行きたくないならほっとけば」
「行かねーとは言ってねえだろ」
「あ、来るんだ」
「ええと……呼びづらいから名前は教えていただきたいなー…なんて……」
「ハァ………五条悟。」
「よろしくね、五条くん!」

仲良くなるのは、ゆっくりでいいかな。


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