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※高専時代
※夏油視点
「あ、夏油くんおかえり〜おつかれ〜」
やっとのことで任務先から高専に着き、寮に戻ろうとする途中で名前に会った。
両手にスーパーの袋を抱えた彼女は私を見つけて手を振ろうとしたのか、袋の中身の野菜をごろごろと地面にぶち撒けた。
「あっ…」
「ああほら、何をやっているんだか…」
「わ〜〜ありがと夏油くん!任務帰りで疲れてるのにごめん…!」
駆け寄って中身を拾ってやるとへらへらっと笑って礼と謝罪をセットで述べる。そんな悪く言うと鈍臭い名前だが、そんな彼女からなんだかんだ目が離せない私が彼女に向ける気持ちは、まあそういうことなのである。
それにしてもこんな量の野菜、一体何に使うのだろうか。
「カレー作ろうと思って。そろそろ夏油くん帰ってくるかなーって時間だったし」
私が訊く前に名前の方から教えてくれた。
彼女は時折こういうところがある。
自分で言うのもなんだがポーカーフェイスには多少自信があるつもりだ。それを知ってか知らずか名前は時折心の声でも聞こえているんじゃないかというタイミングでドンピシャなことを言ってくる。かと思いきや次の瞬間には的外れなことを言ったり、正直よくわからない。
彼女の術式とこのことは関係がないようで、以前カマをかけてみたことがあるが特に何の収穫もなかった。
「最近あんまり食べれてなさそうだったから、とにかく栄養あって量の調節しやすいものがいいかなって。カレー別に嫌いじゃなかったよね?」
「あ、うん」
「よかったぁ〜」
よく気がついたな、が半分。そんなに私の変化はわかりやすかっただろうか?が半分。だいぶ浅い返事をしてしまった。
寮に着いて、名前は真っ先に買い出した物の中から要冷蔵のものを冷蔵庫にさっさとしまって、さっき地面に落ちた野菜の汚れを落としにかかる。
一方私はというと、先程の名前の発言が気になっていた。
たしかに今日任務が入っていることや帰寮が夕方頃になるであろうことは雑談でした覚えがあるのだが、特に夕飯については触れていなかったはずだ。食事を作ってもらう約束をした記憶もない。もし今日私が任務帰りに外で食べて帰ってきてしまったら、彼女はこの一人には多すぎる食材をどう消費したのだろうか。
「ねえ、もし今日私が外で食べて帰ってきていたらカレーはどうするつもりだったんだい?」
彼女のことだからてっきり「五条くんと硝子ちゃんに食べてもらうよ〜」とでも言うものだと思っていた。が。
「んー、まあそしたらタッパーとかに入れて夏油くんの名前書いて冷蔵庫入れとくよ。てかそっか、夏油くんが外で食べてくる可能性のことあんま考えてなかったや」
おかしな奴だ。もし余ったとしても誰か別の人に分けるでもなく自分で処理するでもなく、あくまで私に作るというのか。
「……ね、夏油くん。ごはんってね、結構大事なんだよ。」
名前は鍋をかき混ぜながらこちらを見ずに言った。
「胃を満たすとか、ただ生きるために必要な栄養素を摂るとかだけならさ……まあいくらでも手段はあるけど……人が作るご飯じゃないと満たせないものって絶対存在するんだよ。夏油くんに今一番必要な栄養素って、そういうとこから摂れるんじゃないかなってわたしは思ったから」
表情こそわからなかったが、なんでもないように言ってのける彼女に「ああ、“大事にされる”とはこういうことなんだな」と実感する。
やっとわかった。名前は心が読めるわけじゃない。私をよく見て、気にかけ、大事に思っていただけだ。
それがどういう意味を以ってそうであったか、それが私が彼女に抱く気持ちと同じ種類のものであるかは気になるところではあるが、私の答えはもう決まったようなものだ。
そんなことを考えているうちにカレーはすっかりとろみをつけて、おいしそうな香りを立ち上らせていた。
「名前特製カレーでーす。召し上がれ〜」
「ああ、いただきます」
味としては普通。まあ市販のルーと野菜をそのまま手順通り煮込んだだけなのだから当然と言えば当然だが。
それでも今の私にはなんだか砂漠を長時間彷徨った後の水分のように沁み渡り、美味しく感じる。切られた野菜たちは少々形は歪ではあるが名前が私を思って作ってくれたんだな、と思うと自然と食欲は戻ってくるようだった。
「こんなに気持ちのこもった手料理が食べられるなんて、将来名前と結婚する男が羨ましいな」
一瞬でぼぼっと耳まで赤くなる名前。
さっきあれだけ私の心を見透かしたようなことを言っていたのにこういうことは見透かせないんだな、と思うと目の前の彼女が可愛くて仕方なくなる。
「え、ええと……こ これだけあると食べきれないかもだし今から五条くんたちも呼ぼっか!」
「駄目。このカレーは全部私が食べる」
それから数週間後私と彼女の関係に進展があったのは、また別の話。
夏油傑とカレー
このあとめちゃくちゃ完食した