愛が呼ぶほうへ

ずっと好きだった人がいた。
その人は金髪のサラサラとした髪に褐色の肌、青い瞳をしていて、まるで物語に出てくる王子様のような見た目をしていた。
見た目だけではなく、その人は頭も良く運動神経も抜群とまるで神に愛されていると言っても過言では無いほど完璧だった。
そんな彼と私の出会いは小学校に入学した時に、たまたま同じクラスで隣の席になった事がきっかけだった。
なんて事はない出会い。それでも他の子よりも話したり関わることが多く、男女の意識もない小さい時の出会いだった為、すぐに仲良くなり、相性も良かったみたいで彼の隣にいるのは基本私が多かった。

それは中学に上がっても高校に上がっても変わらず、それと同時に私の恋は実る事はないのだと悟った。
そう、彼は……降谷零はずっと横にいる私を意識した事がなかったのだ。
気が向いた時に優しくされたり、ちょっとだけ意地悪をされるのはそれは私が仲の良い友達だから。
そして最近、零の目が学年で一番可愛いと言われている子に目が向いていたのだ。


「ナマエ、俺彼女ができたんだ」

「え?」

「だから彼女」

「良かったじゃん! もしかして○○さん?!」


必死に顔が引き攣らないように笑顔を貼り付ける。これは世間では喜ばしい事なんだ。私が一番祝ってあげないと。
とうとう恐れていた事が起こり、傷ついた心を無視すると思考回路はパニックになり謎の使命感さえ出てくる。
いや、単純に私が馬鹿なだけなんだろう。


「そう、学年で一番可愛いって言われてる子」

「さすが零! あ、じゃあ彼女に浮気とか勘違いされたら困るから降谷って呼ぶね」

「あー……。じゃあ俺もミョウジって呼ぶな」


そう言った零の声は心なしか低く、不機嫌な時の声色に感じたがきっと、その光景を思い浮かべたのか、私との関係を勘違いされるのが嫌だったかだろうな、と更に自分で自分の思った事に傷つき落ち込んだ。


「相談に乗れるかは分からないけど、まあ何かあれば言いなよ。れっ、降谷よりは女心は分かるし」

「そういえばミョウジは女だったな」


そういった零に少し力を込めて肩パンして鞄を握り「じゃあ私帰るわ、お幸せに〜」と教室を出る。
「気をつけろよ」と声をかけた零にはいはいと返すように振り向かずに手を降る。
階段を降り、下駄箱で靴を履き替えて家に帰る。
下唇を強く噛んで顔を顰める私の顔はきっと可笑しかっただろう。弟の為に夕飯を作り終わり自分の部屋に入ると、決壊したダムのように涙が溢れ出てきて、それを止めることはできなかった。
この日ばかりは父も母も共働きで夜勤のある仕事に就いていて良かったと思った。
弟にはご飯を作ってすぐに部屋に引き篭もった上に、泣いたまま返事をしたせいで散々心配されたけど。

その時の弟は「姉ちゃん虐められたの?」「大丈夫? 俺が仕返しするから!」と本気で心配して、優しい弟に涙が止まり笑いが一つ溢れる。
普段は憎まれ口しか叩かない弟だが、根は姉思いで弟が私の弟で良かったと思った。


それから零への思いを忘れられる訳もなく ただ傷つく毎日を過ごしていた私だが、遂に彼氏ができた。
といっても実際は私が渋り一週間お試しでいいから付き合って欲しいというもので、所謂期限付きなわけだが。
その人は学年は一つ下で怖いけど顔は中々カッコイイと噂され、女子の恋話に話題に上がる内の一人だった。
褐色の肌に零とは真逆の黒髪に釣り目がちの目。サッカー部に入っていて次期部長とも噂されていた。


「降谷」

「どうした?」

「私にも彼氏できたよ」


次は私の番だった。偶然一緒に帰ろうとなって一緒に帰宅し、零の家に着いて別れ際に「そういえば、」と笑って言うと零の動きが止まる。
「おーい」と顔の前で手を降れば零はハッとした様子で、信じられないモノを見るかのような顔で私を見てくる。


「ミョウジを好きになるような物好きがいたんだな……」


しみじみと、そしてどこか苦虫を噛み潰した様な顔で言われると傷つくよりも苛立ちが勝る。
「ちょっと、どう言う意味よ」と零の頬を引っ張れば「はは、冗談だよ冗談」と零の頬を引っ張る私の手に零は自分の手を重ねて頬から離す。
何気ない動作だけど、久々に好きな人に触れられて顔が歪みそうになる。


「親友に恋人ができたんだから素直に祝ってよ」

「そうだな……。おめでとう」


ふわりと笑った零の笑顔は本当に綺麗で、心の底から喜んでくれたような笑顔で、私は余計に泣きたくなった。
ああ、やっぱり私は彼の視界には入れないんだと思い知らされる。


「ありがとう。零も○○さんと付き合ってもうすぐで半年じゃん」

「あー、それが別れた」

「は?」


あっけからんと何事もなかったかのように答えた零に思わず聞き返す。
別れたってそんな! なんで! そしたら私にもチャンスが! と思うのも束の間、さっき私は零の隣に立てても彼女にはなれないと思い知らされたのに馬鹿だな、と心の中でまだ零を忘れられない自分に呆れてしまう。
「ここじゃ何だから家に上がって」と手を引っ張られ、無理やり家に入れられる。久々の零の家に「お邪魔します」と溢した声は少し緊張気味だ。
零は「先に部屋に行ってて、父さんと母さんはいないから気にしなくていいよ。」と言ってキッチンのある方へ向かう。きっとお茶を注いでくるんだろう。
二階の零の部屋に入ると相変わらず片付いていて、部屋のシェルフには私と景光と零のスリーショットの写真が飾られていた。
ガチャっと音がしてドアを振り向けば零が案の定お茶を持ってきていて、ローテーブルにお茶を置く。
そして何故か私の横に零は胡座をかいて座る。普通、向かい側に座らない? と思うも零はたまにこういう不思議な行動をしてたのを思い出して気にしないことにした。


「別れた理由は一緒にいてもキスもしなけりゃ手も出してこない。喋りかけても上の空でつまらない。最初は隣にいれるだけで良かったけどもう限界。って振られた」

「……そりゃ降谷が悪い」


あんな美人と付き合ってお前何やってんの? と逆に問い質したくなる。
というか彼女が本当に可哀想でたまらない。

「なあミョウジ、そいつと別れて」

「はあ?」


思わずお前何言ってんの? と怪訝な顔で零を見てしまう私は悪くないはず。
零は真剣な顔で私を見ていて、居心地が少し悪くなり顔を逸らす。


「ナマエ」

「なにっんぅ!?」


振り向きざまに頭を掴まれる。
目の前は零の顔のドアップというか目しか見えない。唇の柔らかい触感にキスされているんだ、と言うことが分かる。
抵抗しようと手を動かそうとすれば両手首を掴まれて、片手で押さえつけられ、片手はまた私の頭を固定し逃げられないようにしてキスをしてくる。
触れるようなキスからどんどん深くなっていき舌を入れられる。
いやだ、いやだ! と顔を思いっきりずらせば離れた唇に安堵する。


「何考えてるの、降谷」

「別れないならこのままナマエを犯す」


初めての長いキスに乱れた息を整えて零を睨めば、零も私を睨むようにしてとんでもない事を言い出す。
怖いし、私を好きでもないのにそんな事を口にする零に泣きたかったけど、意地でも泣いてやるかと下唇を強く噛んで、心を落ち着かせる。


「絶対に嫌。私だって幸せになりたい。零に私が誰と付き合おうが関係ないでしょ! 離して!」


そう、もしかしたらこの不毛な恋を忘れられる事ができるかもしれないのだ。一週間の期間限定でも相性が良ければ好きになれるかもしれない。もう実らない恋はしたくないのだ。
腕に力を込めて動かそうとしても零の手はビクともせず、さすがボクシングしてるだけあるな、と悔しくて我慢していた涙が出る。
それでも零は力をこめることをやめず、ギラギラとした目で私を見ていた。

その後は言わずもがな私は零に無理やり犯され、何度も何度も腰を打ち付けられ、ただ涙を流すだけだった。そして終わった後に思ったことは「今日が金曜日で明日は休みで良かった。」それだけだった。
「ごめん、本当にごめん」そう言って泣きながら何度も謝って来る零を無視して、ドロリと股から流れた体液を拭き取り身なりを整えて零の家を出た。
本当は腰が痛くて辛くて違和感もあってもう死にたいくらいだったけど頑張って家まで歩いて、そのまま自分の部屋に閉じ篭り寝た。きっとこれは夢なんだ、早く起きないと。そうして私はこの事を夢という事にした。
ちなみに一週間お試しで付き合った彼には結局付き合えないと謝った。
そして零とはお互い自然と関わることはなかった。いや、零は何か話したそうにしていたが私が無視して友達から離れないようにしていた。

そしてその数ヶ月後、すっかり冷え切り高校生活ももう後は卒業式だけと言うときに、あまりの具合の悪さが何日も続き、そういえば生理もまだきてなかった事も話すと、もしかしてと顔を青ざめた母に連れられた病院で妊娠している事を知った。
母はかなりショックを受けていたが、家に帰るなり私をただひたすらギュッと抱きしめ、私はただひたすらごめんなさいと謝るだけだった。
父は私をぶつことはなかったが、当然「相手は誰だ!!」と怒られた、頑なに話そうとしない私に溜息をつき、要約すると「どうするかは自分で決めなさい。できるなら堕ろす選択をして欲しいが、ナマエが決めたことに反対はしない。将来のことをよく考えなさい」と言われ、何日も何日も悩んで、検診で産婦人科でエコーを見ると、病院で見たときはお米のような形だったのが頭と体、ちょこんとした手と足のようなものが出来ていて、自分のお腹に新しい命ができている事も怖いけど、堕ろす事の方が何だかとても恐く感じて産む決心をした。
その事を告げて頭を下げれば、父と母と弟は当然いい顔はしなかったが、「ナマエが決めたことなら」と最後は仕方ないように笑われた。


そうして零には何も話さず関わらないまま短い学校生活を終え、初めての妊娠に神経質になったり、マタニティブルーになったりもしたが、まだ暑さの残る9月中旬。お腹の中で何事もなく元気に育った子が会いに来てくれた。


「おめでとう。元気な男の子ですよ、お母さん。よく頑張ったね」


そう言ってタオルで軽く拭かれて胸元にそっと渡された子は肌は真っ赤でお世辞にも綺麗とは言えない状態だったけど、無事に生まれてきてくれてありがとう、と涙が溢れた。




メモ
妊娠発覚したのは妊娠7週、検診では9週くらいを想定。多分胎芽が米粒みたいな形なのは7週くらいだったはず…5週くらいだと胎嚢とリングしか確認できない、はず……多分(曖昧)
妊娠発覚したのが卒業式を控えてる2月末頃として降谷さんと性交した月は12月末か1月頭頃?
だと冬休みと被っておかしな事になるから、性交は終業式の日で週数がズレてるのは排卵が遅れたか胎児の成長スピードに週数を調整したということで……。
妊娠ネタってこういう所も考えないといけないのが大変だ……。しかも学校とかもう10年も前の事だからどんな感じだったか分からない
安易に手を出すんじゃなかった……。