失せ■探し
「お隣、失礼しても?」
食堂の雑踏に溶け込むようにして食事をとっていた監督生は、かけられた声にカトラリーを置いて振り返った。
視線が合うなりニコリ、と口角を上げた銀髪の少年。両隣には揃いのターコイズブルーの髪を持つそっくりな少年が二人おり、そのうちの一人は大皿に山盛りのパスタを乗せているのが座っている監督生の位置からもわかった。
食レポと共に昼食を平らげていたグリムが、毛を逆立てるかのように青い炎の勢いを強くしている。どうやらイソギンチャクのトラウマがまだ癒えていないらしい。
正面に座るマブも微かに表情を強張らせているが、今更のことだろう。何もしていなくとも絡んでくる他の生徒に比べれば、オクタヴィネルの三人は比較的マシな部類であった。
「どうぞ。他に座る人もいないので」
「ありがとうございます」
諫めるようにグリムの背を撫でてやりながら了承の意を示せば、ジェイドとフロイドがこちらに、アズールが向こう側の席に着く。音も立てずに置かれたトレーは職業病のようなものだろうか。
監督生は綺麗な姿勢でスルスルと料理を平らげていくジェイドに驚きつつも、食事を再開させた。
「そういえば小エビちゃん、探しものは見つかった?」
「探しもの、ですか?」
興味深そうに目を細めたアズールが、ちら、と監督生に視線を寄越す。
意図していなかったフロイドの言葉に、監督生の手がトマトを突き刺した姿勢のまま固まった。
「どうしてそれを…」
「え〜。ンなの、小エビちゃんがいろんなヤツに聞きまくってたからに決まってんじゃん」
「僕に相談していただければ、いつでも力をお貸ししますのに」
演技がかったアズールの台詞に苦笑しながら、監督生はどう説明したものかと言い淀む。
フロイドの話す「探しもの」には心当たりがあった。けれども、アズール達に見つけてもらうのは恐らく無理だろう。そもそも信じてもらえるかどうかすらわからないのだから。
不思議そうにこちらを見ていたマブから目を逸らし、監督生は数度唇を湿らせる。
期待のこもった目──というより、アズールのギラギラ輝く商魂に根負けし、監督生は渋々口を開いた。
「なら、聞きますけど……」
口の中で弾けたプチトマトを、ゆっくりと咀嚼し、飲み込む。
「先輩たちって、オカルト系の相談も乗ってくれるんですか?」
「オカルト?」
意外そうに目を丸くさせた彼らに、まあそうなるよな、と監督生は内心で納得した。
そも、魔法があたりまえに存在するツイステッドワンダーランドにオカルト話があるのかどうかすら不明なのだ。実際、学園には多くのゴーストが雇われているし、監督生に至ってはゴーストと同居している身である。
故郷では怪談やホラーとして扱われていた事象も、こちらでは妖精の悪戯として片付けられている可能性が無きにしもあらず。
はっきりとオカルト案件であると断定しようと思ったのはアズール達が初めてであるため、監督生は切り出すことに躊躇したのだった。
「それは怪異とは異なるのでしょうか?」
ナプキンで口を拭ったジェイドが目を瞬かせる。いつのまにか、三枚の大皿は綺麗になっていた。
「怪異ですか? うーん…同じだと思いますけど……」
「だったらマリモちゃんに相談するといいよぉ。こーいうの得意だし」
「マリモちゃん?」
はて、と監督生は首を傾げる。フロイドの独特なあだ名付けは今更驚くようなものではないが、マリモ≠ニ名付けられた生徒に覚えはない。あるいはすでに遇っているが、フロイドがその場にいなかったがためにあだ名を知らなかったという可能性もあるが。
何にしてもこの件を解決できる人物がいることに、監督生は秘かに安堵した。こちらの世界にも元の世界と同じようにオカルト案件があり、相談できる場所もあるとわかったのだから。
監督生は逸る気持ちを抑えることなく、”マリモちゃん”の正体を知るであろうフロイドを見遣る。
「そのマリモちゃん…さん? はどこに行けば会えますか?」
「ん〜、放課後は図書室によくいるけど…。最近は忙しくてあんま行けてないって言ってたから知らね」
「えっ…。な、ならクラスは?」
「彼ならフロイドと同じD組ですよ」
「ただ、あの人は昼休みになると姿が見えなくなるので。……まあ、人気のない教室で昼食をとっているのでしょうが。どちらにせよ、監督生さんが見つけて声をかけるのはかなり難しいかと」
「休み時間は移動で終わってしまいますし、授業をサボる気でもないと現実的な案ではありませんね」
ジェイドとアズールに丁寧に無理だと言われ、監督生はがっくりと首を垂れた。