「体験入学で一度来たことあるけど…やっぱフツー!!」

私立明星芸能学園みょうじょうげいのうがくえん。名前も実績も立派な学校の筈だが、校舎の見た目はどこにでもある普通の学校だった。
最近校内を新しくリフォームしたらしいが、全部というわけではなく、一部はボロ校舎のまま放置されている。

同じ制服を着た、恐らく新入生であろう人たちがゾロゾロと講堂へ向かって歩いている。私もそれに紛れるようにしてついていった。


暫くして入学式が始まった。席は特に決まっておらず、講堂に入った順番でみんな適当に座っている。周りを見渡すと、流石芸能学校というべきか…男女共に美人が多い。勿論そういう人たちは大抵表舞台で活躍したい人達だろう。この学校は私のように裏方の仕事を希望する人達のための学科もあるため、新入生だけでもかなりの数の生徒がいた。

校長先生の長い話に誰もが飽き始めていた頃、前の方には頭が船を漕いでる子も何人かいるのが見えた。…これは確かに眠い。私も寝てしまいそう……なんて睡魔と戦っていると、私の隣に座っていた男の子が小声で話しかけてきた。

「なあなあ、キミどこの学科なん?」

その声にはっきりと目が覚める。隣に目を向ければ、茶髪の男の子がこちらを見ていた。

「私はプロデュース科だよ。あなたは?」

「えっ、キミ可愛ええのに裏方志望なん?珍しいなあ。俺はタレント科!」

初対面なのに友好的な態度の彼に若干驚いたが、こんな業界なのだから、こういう人がいてもおかしくはない。というより、何よりコネクションが大事になってくるから、寧ろプラスとも言えよう。

「タレント科かあ…今一番人気の学科だよね」

「今の時代、バラエティ出てナンボやから。最近なんかは動画サイトとかで自分で番組作る奴らもおるくらいやしなあ」

「タレント科内だけでも競争率高そうだよね」

「けど、実際の業界はもっと広いやろ?この学校で1番になるくらいの精神でおらんと生き残られへんで!」

確かに彼の言う通りだ。後ろ向きな精神ではやっていけない。たとえ裏方仕事でも、使えない人間は切り捨てられるのだから。
話しているうちに校長先生の話も終わったようで、入学式は終了した。

《講堂前にクラス分けの表が貼ってあるので、確認したら直ちに指定の教室へ向かってください》

そんなアナウンスが終わると同時に後ろの席の方から生徒達がドッと一気に講堂を出ていった。

「クラス分けかぁ…俺何組やろ…あ、そういえば自己紹介まだやったな。俺オカモト。オカモトタロー言うねん」

「えっ…げ、芸術は?」

「ちゃうちゃう!読み方一緒やけど漢字ちゃうねん!岡元!岡元太郎!!爆発はせえへんで!」

隣の彼はなんとも印象的な名前だった。けどこのインパクトのある名前も、この業界では武器になるだろう。名前を覚えてもらえるのはとても重要なことだ。

「私、鈴木八重。よろしくね岡元くん」

「八重ちゃんやな!よし、未来のプロデューサーに今のうちに媚び売っとこ」

「あはは、それ本人の前で言っちゃうの?」

岡元くんの楽しいジョークに付き合いながら人の流れに沿って講堂を出る。大きく張り出された表から自分の名前を探した。どうやらA〜Fまでの6クラスあるらしい。探すのにも一苦労だな…と思っていたが、案外早く見つかった。

「あ、あった!私A組だ。岡元くんは?」

「えっ、見つけんの早ない!?あ、待って俺も見つけたわ。A組!同じクラスやで!」

最初にA組から探していて良かった。 しかも同じクラス。思わず2人でハイタッチをする。早速知り合いが出来て良かった。

「1年間よろしくな、八重ちゃん!」

「こちらこそよろしく、岡元くん!」



***



A組の教室にて、私はガチガチに緊張していた。席は出席番号順で、廊下側から2列目の一番前。嬉しいことに岡元くんは斜め後ろの席で近かった。それは構わないけど、問題は私の左隣。

「(今人気急上昇中の舞台俳優、高橋紀彦たかはしのりひこがいるー…!!!!)」

イケメンボイスで声優業もこなし、爽やかフェイスでモデルとしても人気なイケメン舞台俳優、高橋紀彦。個人的にめちゃくちゃファンなのだ。

私の周りの女子生徒達も現役芸能人で顔が良い彼に釘付けになっている。この学校、学科関係無しにゴチャ混ぜにクラス分けがされている。パンフレットにも書いてあったけど、裏方も表も人との繋がりが大切だから、との事。要は今のうちに仲良くなっとけって話だ。
更に高橋くんの様に既に現役で活躍している歌手、俳優やタレントもこの学校に通っている事が多い。有名人と同じクラスになる確率も結構高いのだ。

左隣から放たれるオーラに緊張しながら担任の先生の話を聞き、高校生初のホームルームが終了した。今日は入学式故に特に授業があるわけでもなく、ここで解散という形になった。

この後仕事がある人もいれば、私のように何もなく暇している人もいる。家に帰ってもする事ないし、学校探検でもしようと思い席を立った。


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