B
「すごい…ダンスルームが9つもある…」
流石芸能学校というべきか、そういった専門的な部屋はかなり多い。レコーディングスタジオや映画館のような場所もあった。
「ここは…第7音楽室…?音楽室だけで7つもあるの…?」
歩いていると見つけた教室。チラリと中を覗いてみると、トランペットやフルートと言った管楽器類が沢山置いてあった。隣の第6音楽室にはバイオリンやチェロののような弦楽器、第5は和楽器と教室によって置いてある楽器が違うらしい。変わっていく楽器の景色を楽しみながら歩いていると、奥の方でピアノの音が聴こえはじめた。
「(第1音楽室の方からだ…)」
そのどこか懐かしいような、聴いたことのあるようなメロディにつられて足を進める。誰が弾いてるのか気になって、ドアの小さな窓からこっそり覗いてみた。
桜色の髪をした女の子が、楽しそうにピアノを弾いていた。けれど奏でられるメロディはどこか悲しげで、切なく感じる。
「(あれ…?この子、どこかで…)」
そう思いながら聴き入っていると、一曲弾き終えた女の子が私の存在に気づいたのか、目が合った。
あ、と思った頃には既に音楽室の扉は開かれていた。
「もしかしてここ、使う?」
「えっ、あ、いや!ごめん覗いてて…特に用は無いんだ」
「そうなの?」
「うん、ごめん。綺麗なピアノだったから思わず聴き入っちゃって…」
そう言うと彼女は大きな目をパチクリさせる。近くで見るとめちゃくちゃ整った顔だった。ていうか…やっぱりどこかで見た事がある。
「ホント?嬉しいなあ〜!良い曲でしょ?」
「うん。楽しそうで、でもどこか儚げな…」
「あ、わかってくれた?原曲をちょっとアレンジしたんだよ!」
そう言って彼女は右手の人差し指と小指を立てた。その仕草にどこか見覚えがあり、目を見開く。まさか、と思い恐る恐る尋ねた。
「えっと、私は鈴木八重。あなたの名前は…?」
「私?」
すると彼女は一歩後ろに下がり、左手を腰に当て右手をそのままに決めポーズをとった。
「さんちゃんですっ!」
彼女は思いっきりドヤ顔でそう言ってのけた。
その仕草はファンなら誰もが知ってるであろうもので、私もそのファンの1人だった。
だから、興奮しないわけがなかった。
「ゔっ……ゔぃーずの
さっきも名乗ったのに興奮のあまりもう一度自己紹介しつつ彼女の両手を取りブンブンと高速握手をする。
姉がプロデュースしたアイドルグループ
「私のファン?へえ、凄い!まだ覚えててくれてる人いたんだ〜!」
「わわわわ忘れるわけないよ!!2年前テレビで見てた時より大人っぽくなってたから一瞬気づかなかったけど!!」
「ふふ、ありがとう」
ふわっと笑う彼女はやはりアイドル・さんちゃん。可愛い以外の言葉が出てこない。自分の語彙力の無さを嘆いた。
「ていうか、ファンなら忘れる人の方が少ないと思うけど…」
「うーん…ファンっていうか、世間にかな?私達、特に解散宣言もせず解散しちゃったから。自然消滅したって思われてるみたいで、まだ2年しか経ってないのに意外と忘れられてて…」
さんちゃんの爆弾発言に私の開いた口は塞がらなかった。
「えっ?解散?」
「うん。解散」
「か、解散ーーーーー!?!?え!?いつ!?!?解散してたの!?えっ!?」
「まあ、そう思ってるのは私以外の全員なんだけどね」
さんちゃんの言葉に頭にハテナを浮かべる。私以外の全員?どういう意味が尋ねてみた。
「メンバーの1人が勝手に解散するって社長に直談判してね?それを聞いた他のメンバーは解散したと思ってるんだけど、その時の正式な書類は私が社長の手に渡る前にこっそりビリビリに破ったから、実質解散してないんだよね!」
可愛い顔してとんでもないことを言ってのけたさんちゃんにかっぴらいた目が零れ落ちそうになった。
まず解散したという事実にもびっくりなのに、それがメンバーの勝手な判断で、更にさんちゃんが実力行使で解散の話を無しにした…という怒涛の展開に一瞬ついていけなかった。
「困っちゃうよね〜メンバーとの相談も無しに勝手に解散だなんて。お陰で私達バラバラだよ。学校は一緒だけどさ」
「こ、困るとか言うレベルの問題じゃないような気が…ていうか同じ学校!?Z°sのみんなこの学校通ってるの!?」
「うん!みんな同い年だから、1年生だよ。ちなみに私はA組」
「A組…ってあれ!?同じクラス!?わ、私としたことが気付かなかったなんて…!!」
隣の高橋紀彦くんに夢中だったせいだ。佐々木美咲という名前からして出席番号順は私とも近いはず。私が一番前の席だから、きっと彼女は後ろの方に座っていたのだろう。
「じゃあ、さんちゃんはアイドル科…?」
「そう!今一番不人気の学科」
「ふ、不人気…」
実際、さんちゃんの言う通りだった。
今一番人気の学科はタレント科。次に俳優科…つまり俳優女優、声優等演劇をお仕事とする職を目指す子達が入る学科だ。他にボーカル科やダンス科等色々あるが、5年前の急激なアイドルブームで作られたのがアイドル科だった。
しかし今やアイドルの人気も殆ど無い。流行は過ぎ去り、殆どのアイドルがテレビに出なくなってしまっていた。今芸能界に残っているアイドルは、65人というものすごい人数のアイドルグループ「
「そういう鈴木さんは?なんの学科?」
「私はプロデュース科。プロデューサー目指してるんだ」
「へえ〜!番組制作とか、映画の演出とか?」
「ううん、なりたいのは音楽プロデューサー。A&Rとかそういう系だよ」
「そっちか〜どういうアーティストをプロデュースしたいの?今人気の歌手ユニット
もうアイドルはウケない時代。現状がそんな芸能界で、私のような人はきっとおかしいのだろう。でも私の夢は小さい頃から決まっていた。
「…アイドルを、プロデュースしたい」
私の言葉に、さんちゃんはまた目を見開いた。
「…アイドル?」
「う、うん。世間は求めてないかもしれないけど、アイドル好きはまだいると思うんだ。それに昔からの夢で、そのためにこの学校に入ったっていうか…えっと、その…」
「アイドルのプロデューサーか〜!じゃあ今から私も鈴木さんと仲良くなっとこうかな!」
岡元くんみたいなことを言うさんちゃんに少し笑ってしまった。やはりみんな考える事は同じなのだろう。
「さんちゃんはもう既にアイドルだけど…ソロデビュー目指してるの?」
「私にソロは無理だよ〜やっぱ7人じゃなきゃね」
笑いながら冗談を言うように話してはいるが、どこかその表情に影を感じた。解散というワードが出るくらいだ。メンバー内で何か揉め事でもあったのだろうか。
けれど、それもほんの一瞬ですぐ笑顔に戻った。
「私の今の目標はね、Z°sの復活」
「えっ…じゃあ、再デビューってこと…?」
「そう!鈴木さんZ°sのファンなんでしょ?復活の日を楽しみにしててよ!」
「も、勿論だよ!すごい楽しみ!!」
かつてお姉ちゃんがプロデュースしていたアイドルとこうして直接話せているのが夢みたいだ。まさかメンバー全員がこの学校にいるとは思ってなかったけど、改めてこの学校受かって良かった…!!
「あっ、そうそう!私今友達いないんだ!八重ちゃんって呼んでもいいかな?私のことはさんちゃんと呼んで!!」
「その言い方語弊が生じるね!今日入学式だったんだし仕方ないけど!わわわわ私でよければ是非お友達に…!!」
「本当?やった〜!中学の時は仕事漬けでメンバー以外の友達いなかったから、なんか久しぶりだな〜こういう会話!」
成る程、全盛期時代は多忙で中学に通う暇すら無かったのだろう。この学校にはさんちゃんと似たような経験の人たちも多いに違いない。やっぱり、色んな人に今の内に顔を覚えてもらわないとなあ…。
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