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「ね、ねえ…本当に今から会うの?」
「思い立ったら即行動だよ!」
「即すぎる気が…」
さんちゃんに見つめられつつ無事弁当を食べ終えた私は腕を引っ張られ廊下を歩いている。ファンならば歓喜なシチュエーションだが心の準備が出来ていない私としてはもう少し待って頂きたい。
「みんなどこのクラスにいるか知ってるの?」
「知らないよ」
「えっ」
「片っ端から行けばいつか見つかるよ」
言ってることは間違ってはいないがそれで良いのか佐々木さん…。意外と行動するタイプなんだなあと思いながらまずはB組の教室を覗いてみる。
「…いないね」
「ね〜…このクラス前見た時はいたような気がしたんだけど、私の気のせいかな」
「昼休みだし食堂とか中庭に行ってるのかも…」
「む〜…皆に話したいことがあるのに」
むっとするさんちゃんも大変あざと可愛い。その後C組やD組を見に行ってみるが誰も見つからない。食堂にまで行ってみるもメンバーはおらず、結局教室に戻ることになった。
「もう!みんなどこで何してるの〜?」
「入れ違ったのかもね。もっかい教室覗いてみ……」
教室へ戻ろうと廊下を歩いていると、前から来る人物達に見覚えがあった。
茶髪のサラサラロングヘアに、すらっと背の高い美人な子と、真っ赤な髪を高く結った風船ガムを膨らましている子。あれは…
「あ、ニニと樹ちゃんだ〜」
「(
さんちゃんと私の反応の温度差が激しいが仕方ない。だって目の前にいるのは探していたメンバーの内の2人なのだから。
現役でモデル活動も兼任するクールビューティ担当、Z°sの副リーダー中村ニニちゃん。ほっそ…顔ちっちゃ…脚長っ!!全女の子の憧れのスタイル!!少し伏せた青い目も美しい。前髪を編み込んでいるチャームポイントも昔と変わっていない。その冷めた目と彼女の発する美声からファンは「ニニ様」と呼び自らを下僕と自称してしまう程の美貌の持ち主…!!生で見ると、もっと美人さんだ…!!
更にその隣にいるのは、楽曲の振り付けも担当する田中樹ちゃん。こちらも背が高く、2人並んでいると迫力が増す。好物は風船ガムって本当だったんだ…!!
さんちゃんに気付いたニニちゃんが私達に近づく。あ、やばい内心でひたすら語ってたから心の準備を完全に忘れていた。
するとニニちゃんと目があってしまった。ウヒィ!!とつい気持ち悪い声が出てしまい隣から感じるさんちゃんの視線が痛い。…あれ、ニニちゃん私に近づいて来てない?
え?え??と慌てているとニニちゃんは私の目の前で足を止めた。美人さんにじっと見つめられ思わず顔を赤らめる。
「な、ななななな何でございましよう……」
「…ああ、ごめんなさい見すぎたかしら。知り合いに似ていたものだから、つい」
それってもしかしてお姉ちゃんの事かな?それにしても話し声まで美しいなんて流石ニニ様…。そんなニニ様の発言にさんちゃんが笑顔で対応する。
「やっぱり似てるよね!?何を隠そうこの子、零ちゃんの妹さんなんだよ〜!!」
「…ああ、どうりで」
「ニニぃ〜その子誰〜?」
ニニちゃんに続いて樹ちゃんも近づいて来る。あれやばい私これ好きなアイドル3人に囲まれてるやばい凄い。
「あ、さんちゃんじゃ〜ん元気そうだね〜」
「さんちゃんですから〜☆」
「零さんの妹って事は、あなたプロデューサー志望なの?」
「は、はい!そうです!えっと、鈴木八重って言います!よよよよろしくお願いしもす!!!!」
体を90度曲げて握手を求めるが噛んでいるので色々台無しだ。ニニちゃんはそんな私に少しだけ微笑んで握手してくれた。め、女神だ……女神がいる……。そう感激している私の横で、さんちゃんは話を進めていた。
「ねえ、他のメンバーどこのクラスなのか知らない?」
「知らないわよ。連絡取り合ってないし。私はB組よ。樹と同じクラス」
「てか探してどうすんの〜?特に話すこともなくなァい?」
樹ちゃんの言葉がどこか冷たい事に引っかかる。3人とも表情に影を感じた。やっぱりメンバー内で揉め事があったのかな…。
「話すこと、あるよ!この際だから今言っちゃうけど、私もう一度Z°sやろうと思ってるから」
さんちゃんの言葉に、場の空気がピリッと張り詰める。その重たい雰囲気に私まで緊張してしまった。
「…えーマジぃ〜?」
「マジだよ!」
「だってさ〜ニニぃどうする〜?」
無表情だが、纏うオーラの冷たいニニちゃんに、何の気なしにいつも通りのテンションの樹ちゃん。…見てるこっちがハラハラする。私なんでこの空気に挟まれているんだろう…。
「私、やらないわよ」
えっ…と思いニニちゃんに目を向ける。真剣な目で、とても冗談とは思えない。さんちゃんはニニちゃんの答えを分かっていたのか特に驚いている様子もなかった。
「言うと思った。どうせ樹ちゃんもやる気ないんでしょ?」
「そだねェ〜」
「だからね、今日は決闘を申し込もうと思って来たの!」
いつものアイドルスマイルでアイドルらしからぬワードが出たことに驚き首がもげる勢いでさんちゃんを二度見した。決闘!?な、殴り合いでもするのか!?
「決闘…?」
「そう!この学校、許可取れば好きに使っていいステージいっぱいあるでしょ?そこでライブするの。より多くのお客さんを満足させた方が勝ち。どう?」
あ、決闘ってそういうことかと内心ホッとする。しかし挑発的なさんちゃんにもニニちゃんは全く動じていない。樹ちゃんなんかスマホをいじり始めている。
「やる意味がないわ。時代を考えなさいよ。もうアイドルはウケないのよ?」
「やってみなくちゃわかんないよ」
「わかるわよ。iD65だって、全盛期のメンバーみんな卒業して、もう売れてないじゃない。一度廃れたグループがもう一度栄えるなんて、前例が無いわ」
「前例が無いなら私たちが作ればいいんだよ」
「…呆れた。アンタそういう事言うタイプだった?」
2人の言い合いに部外者の私が口出しできる筈もなく、オロオロと様子を伺うしかなかった。唯一の頼みの綱であるはずの樹ちゃんはスマホから目を離さない。ツ、ツミツミやってるよこの子…せめて会話くらい聞いてあげて…!
「とにかく、私はやらないわよ。そんな無駄な勝負」
「逃げるんだ?」
「………は?」
張り詰めていた糸がプチッと切れるような音がしたのは気のせいだろうか。それまで冷めた顔をしていたニニちゃんの表情が一変した。
「そっかそっか〜…ニニは私に負けるのか怖いんだね!」
「………」
「仕方ないよね!全盛期の頃は私の方が人気だったもんね!」
「………」
「う〜んなら仕方ない!先に別のメンバーと…」
「誰が逃げ腰よ!!!!やってやるわよ!!決闘よ決闘!!!!」
ニニちゃんのチョロさに開いた口が塞がらない。それにさんちゃんは終始笑顔だし逃げ腰とは一言も言ってない。樹ちゃんもびっくりしたのかゲームする手を止めてニニちゃんの方を見ている。
「さんちゃんが勝ったらZ°s入ってね!」
「…私と樹が勝ったら?」
「え?あたしもやんの?」
「その時は2人の好きにしていいよ」
「え、ねぇあたしもやんの?」
2人だけでぐんぐん話が進んでいくせいで樹ちゃんがついていけていない。しかしニニちゃんの目は完全に本気だった。やる気満々だよこの人。
「勝負は3週間後の放課後。西館の第5ステージで。歌う曲も衣装も演出も自由だよ」
「ふん、アンタはいいの?こっちは2人だから2対1になるけど」
「ねぇ〜マジであたしもやんのォ?」
「私も1人じゃないよ。ね、八重ちゃん!」
「……ゑっ」
その爆弾発言の意味を数秒考えている間に、さんちゃんは私の肩に腕を絡めて笑顔で告げた。
「この鈴木八重プロデューサーが私のプロデュースしてくれるから平気で〜す!絶対負けないからね〜?」
「望むところじゃない…」
「ええー!ねえニニぃマジであたしもやんのォ?」
「やんのよ!いい加減腹をくくりなさい!!」
ええ〜!!と叫ぶ樹ちゃんを引きずってニニちゃん達は去って行った。まだ理解の追いついていない頭でさんちゃんを見る。
「いや〜流石ニニ、相変わらずチョロくて助かったよ!八重ちゃん連れてきて正解だったね!よろしくねプロデューサー!!」
この子絶対確信犯だ。
今度は私の絶叫が廊下にこだました。
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