翌日。

ついに今日から高校生活が本格的にスタートする。教室の扉前ですっと深呼吸をした。

「…取り敢えずまずは友達づくりから始めよう」

ぐっと手を握りしめ扉を開けようと取手に手を伸ばした瞬間、扉が勝手に開いた。

「うわっ」

「ん?あ、八重ちゃんだ!おはよ〜」

「さ、さんちゃん…おはよう」

今日もアイドルスマイルが眩しい。更にさんちゃん越しに見える高橋紀彦くんも眩しい。私の熱い視線に気付いたのかさんちゃんがチラリと後ろを向いた。

「八重ちゃんもしかして高橋くんのファン?」

「顔が好き…」

「へえ〜」

さんちゃんはイケメン慣れしているのか、そもそも興味が無いのか、高橋くんを見ても特に反応が無い。恋愛禁止が基本のアイドルにとって、さんちゃんのこういう所はファンからすれば嬉しかったりするんだろうか。

「Z°sって恋愛はやっぱりしちゃダメなの?」

「いや?別に構わないよ」

「えっ、そうなの?」

「アイドルにしては珍しいでしょ。恋愛OKなんだよ〜!」

「で、でもファンの人達は…」

「ファン公認だからね。まだ出たことないけど、スキャンダルとか起きてもルール上は問題無いよ」

でもメンバーみんなそういう気は無いみたいだからあまり意味ないけどね、なんてさんちゃんは言うけど、私の調べによると応援しているアイドルが熱愛発覚等した場合、その売り上げは大幅に減る事が分かっている。アイドルに限らず、女優や俳優でも同様だ。
恋愛禁止令は出さずとも暗黙の了解で禁ずる会社も結構いる中、はっきりとそれを公言してしまうのはなかなか珍しかった。

「じゃあさんちゃんは好きな人とかいるの?」

「私はファンのみんなが恋人かな!」

眩しい。
眩しすぎる。
この人アイドルの中のアイドルだ。
全国のスキャンダルで問題になっている人達は佐々木美咲を見習って欲しい。

「おーい、八重ちゃんいつまでそこにおるんやー。俺入られへんで〜」

さんちゃんのアイドルオーラに酔いしれていると、背後から聞き覚えのある声がして振り返った。そこには岡元くんが呆れたように私たちを見ていた。…思えばここは教室の扉前だ。

「あっ、ごめん!おはよう岡元くん」

「おはよー…ってZ°sの佐々木美咲ちゃん!?えっ、何でおるん!?」

「はい、さんちゃんですっ!私もA組だからね!」

「うおー!生さんちゃんですやん!!ファンです大ファンです〜!!あ、俺岡元太郎言います、よろしくな〜!」

「芸術の人?」

「ちゃうて!!漢字ちゃうねん!!」

私の時と全く同じやりとりで自己紹介する岡元くん。さりげなく手を取って握手までしている。策士だ…。

そうこうしている内に朝のHRが始まるチャイムが鳴り、忙しなく席に着く。後ろを見れば、最後列にさんちゃんがいるのが見えた。やっぱ後ろの方にいたのか…。
更に辺りを見渡してみる。が、他のZ°sメンバーはいなかった。後で他のクラスを覗いてみようと心に決め、前を向いた。


***


「どうだった?初授業!」

お昼休み。さんちゃんの机に集まって2人でお弁当を食べているなう。憧れのアイドルと一緒にご飯を食べられるなんて夢のようだ…。

「プロデュース科は芸能界の常識を教えられたよ。やっぱそういう知識はいちばん無いとダメな職だから。そっちは?」

「アイドル科はね〜俳優科と合同で、笑顔の練習〜!」

にーっととびきりのスマイルを見せてくれるさんちゃん。今日は0円サービスしすぎではないだろうか。

「笑顔か〜やっぱ芸能界経験者でも基礎からやるんだね」

「授業はみんな同時スタートだからね〜」

「そういや授業で他のメンバーには会えた?」

そう尋ねれば、さんちゃんは残念そうに首を横に振った。

「アイドル・俳優科合同クラスはね、4クラスあるんだ」

「結構あるんだね」

「8割くらい俳優科の子だけどね〜!私の他にはいなかったし、別のクラスだと思うよ」

「そっか…」

他のメンバーの話も聞きたかったなとソワソワしていると、クスリと笑われてしまった。

「会いたいの?」

「そ、そりゃファンですから…」

「じゃあ会いに行こうか」

「…ゑっ」

驚く暇も無くさんちゃんは食べ終えた弁当を片付け始め席を立った。

「ちょっ、待って待って待って」

「そんな急いで食べなくても待ってるよ」

「そ、そっちじゃなくて!こここ心の準備が…」

持っている箸を震わせながら卵焼きをつまむ。今からZ°sのメンバーに会えるかもしれないと思うと興奮が抑えられなかった。さんちゃんはそんな私をまじまじと見つめながら早くしろと言わんばかりに待っている。非常に食べ辛い。

「心の準備をするほどの相手じゃないよ」

「わわわ私にとってZ°sはおおおねおねお姉ちゃんの宝物だしそそその…」

「お姉ちゃん?」

そういえばさんちゃんに言ってなかった。本当は出会い頭にあなたたちのプロデューサーだった鈴木零すずきれいの妹です!って言うつもりだったけど、あの時はびっくりしすぎて完全に忘れていた。

「す、鈴木零の妹の鈴木八重です…私がアイドルのプロデューサーになりたいのは、姉の影響だよ」

「え!?零ちゃんの妹さん!?確かに言われてみれば似てるかも…」

さんちゃんは更に顔を近づけてじーっと私を観察する。やっぱり食べ辛い。

「尚更みんなに会わせたくなったよ!さあ八重ちゃん急いで食べよう!」

結局急かすらしい。


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